ティータイム



「お招き頂きありがとうございます…」
「そんなに堅苦しくしないでよ。僕はただ君とおしゃべりをしたいだけなんだから」

そうは言っても、天祥院さんに呼び出されたとなればかたくなってしまうのはしかたがないだろう。この学院にいる限り、この人の力ですべてが決められているような気がしているし。

「どうぞ、ダージリンティーをいれてみました」
「ありがとう」

天祥院さんにではなく紅茶部に呼び出されたということなのだろうか、創くんが紅茶をいれてきてくれて傍にいるのが救いだった。

「お客様にお菓子も出してくれると嬉しいな」
「はい!選んできますね」

創くんはにっこりと笑って天祥院さんに従っているようだし、私の可愛い創くんが毒牙にかかっているのではないかと不安にもなる。

「あの、天祥院さん、呼び出しなんて私何かやらかしました?」
「いいや、ただ遊びにおいでと言っておいたのになかなか来てくれなかったから呼んだだけだよ。なんだか君は僕を避けているようだし、寂しくなってしまってね」
「避けてなんていませんよ!ただ、クラスが違うし、fineのプロデュースをする機会も無いので、なかなか近寄りがたくてですね」

避けているのは事実なので、言い訳みたいになってしまう。苦手なものは苦手だからしょうがない。大事な友人関係を築いたことのある渉くんが、fineとの戦いでブーイングの嵐を浴びていたあの光景が、どうしても脳裏にちらついてしまう。

「その通りだね。だからこそ今日は、こうして君を呼んだんだよ。でも避けていないと言うのなら、どうか僕に敬語を使うのはよしてくれないかい?天祥院さん、だなんてよそよそしいのも好まないよ。僕も皆と同じように、一人の同級生として接して欲しいな」

たしかに私は、プロデューサーとして皆を平等に扱いたいと思っている。だからこそ、渉くんを渉くんと呼ぶのに合わせて皆を名前で呼ぶよう心がけていたし、あの零くんにすらタメ口なのだから、他の生徒にも敬語は使わないようにしていた。
だが、天祥院くんは、私とは格が違いすぎて。

「…英智くん、って…呼べばいい、の?」
「うん、そうして欲しいな」

正気の沙汰じゃない。紅茶の味もわからないほどだ。

「はい、楓さん。よかったら召し上がってくださいね」
「ありがとう、かわいいね!これもしかして手作り?」
「えへへ、そうです。今日は楓さんが遊びに来てくれるって聞いていたので、はりきって作っちゃいました」

創くんが用意してくれたのは、うさぎやお花やお星さまの形をしたクッキーだった。ああもう、ここでは創くんだけが癒しであり天使だ。fineは天使をイメージしているだなんて言うけれど、天祥院英智はとても、私にはまだ天使とは認識できやしない。

「僕も食べていいかい?」
「もちろんです!お口に合うといいですけど」
「そうだね、あーん♪」
「えっ。えっと、楓さんが見てますよ?」
「構わないよ」

私は何を見させられているのだろうか。英智くんが創くんにあーんを所望している。創くんも私の目をちょっと気にするだけで、慣れた手つきでクッキーを英智くんに食べさせていた。

「うん、やっぱり創くんの焼いたクッキーは美味しいね。どんどん上達しているように思えるよ」
「えへへ、ありがとうございます」
「楓ちゃんは食べないのかい?」

二人のやりとりを見ていたらクッキーを食べるのを忘れていた。英智くんがそんな質問をするせいで創くんに少し不安そうな顔をさせることになってしまった。

「私も創くんにあーんしてほしい!」
「ええっ、そ、そんな、いいんですか?」
「してほしい!あーん!」

紅茶部に身を置くだけで創くんにあーんしてもらえるなら私だって紅茶部に入りたいくらいだ。英智くんが普段からそんなことを創くんにさせているというなら職権濫用だ。ずるすぎる。

「楓さんがそう言うなら、はい、あーん♪」

創くんは照れながらも私の口の前にクッキーを差し出した。自分でお願いしたこととは言え緊張してしまったが、おそるおそるクッキーを口にした。さくさくと程よい食感で、 甘すぎなくてとても美味しかった。

「かわいい…おいしい…」
「ふふ、ありがとうございます」
「もっとちょーだい♪」

創くんのサービスが最高すぎて、創くんに向かって自分の口を指差してみた。そしたらなぜか英智くんが手に取ったクッキーを私の前へと差し出していた。

「…え?」
「あーん」
「…」
「おや、僕からのサービスは受け取って貰えないのかな」

可愛い創くんにしてもらえるから嬉しいってことを英智くんはわからないのだろうか。仮にもアイドルの、この学院のトップに立つような美しい男にそんなことをされたら、普通に照れる。

「あ、あーん…」

創くんのときよりも更に緊張しながらそのクッキーをいただいた。美味しいはずなのに、英智くんのせいで味に集中できなかった。

「ふふ、照れているのかい?可愛いね」
「…なんだか、見ているこっちまで照れちゃいます」

照れるつもりなんかなかったのに。不意打ちはまずい。気を引き締めていかなければ。

「これからも紅茶部に顔を出してくれれば、僕も創くんも、きっと凜月くんも、いつでもあーんしてあげるからね」
「はは、それは魅力的だね…」

創くんのあーんだけでいいんだけど、なんて失礼だから言えないし困るなぁ。

「創くんも食べなよ、あーん」
「わわ、ありがとうございます」

英智くんは創くんにもあーんしているし、何それめちゃめちゃ羨ましいんだけど。紅茶部ほんとに普段からこんなことしてるの?部活変えたら渉くん怒るかな。

「あーん」
「えっ、え、あ…ありがとうございます…」

羨ましすぎて私もクッキーを創くんの口元へ持っていくと、びっくりしてしかも照れてくれて、アイドル活動中にはしないような類いの可愛い表情で私の差し出したクッキーを食べてくれた。

「僕にはしてくれないの?」

創くんに癒されていたのに横槍を入れられた。確かに、この場で英智くんにそれをしないのは、ちょっと不公平だ。言われたからにはやるしかなくて、英智くんにもあーんをしてあげると、上目遣いでわざわざ私を見ながら食べられた。さすがアイドルというのか、綺麗すぎてびっくりした。

「紅茶部、ちょっと心臓に悪いかも」
「ふふ、僕もドキドキしているよ。触ってみるかい?」
「遠慮しておきます!」
「それは残念」

英智くんは思ったよりは手が届く、触れる距離の人間だったらしい。心を許したわけではないけれど、他のみんなと同じように接するよう、気を付けなければ。


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