病み上がり



「ご迷惑おかけして本当に申し訳ございませんでした。体調管理、これからはもっと気を付けます…」

職場の人たちに頭を下げまくり、私の仕事を代わりにこなしてくれた同僚たちには取り急ぎ差し入れを買って渡し、何度も何度も感謝した。
出会うアイドルたちにも心配されるし、寂しかったとか心配だったとか言われるし、無理をしすぎだと怒られさえした。皆私の体を案じて声をかけてくれるなんて、と申し訳ないが嬉しくなる。

「紫之さんが毎日様子見にきてたよ」
「えっ」
「休んでる間連絡してあげなかったの?」

隣の同僚にそんなことを言われ、急いで社用ケータイを開いて創くんからの連絡を探す。
『大丈夫ですか?』『無事に帰れましたか?』『何度もすみません、生きてるか心配で…』などと半日置きくらいのペースでメッセージが入っていた。

「ほ、ほんとだ…」

未読になっていなかったから私はこれを読んでいるはずなのに、全く記憶にない。朦朧としながら読んだのだろうか。昨日なんかは意識ははっきりしていたはずなのに。
というかよく見れば、ジュンくんからも心配されている連絡がきているし、なぜ全部既読なんだ。上司との連絡は記憶にあるしきちんと返しているのに。

「や、まさか…」

茨くんが勝手に読んだ?そんなめんどくさい彼氏みたいなことするか?一緒にいるとき、仕事のことは忘れてください!と言われて私はスマホをほとんど開いていないし。

「あ、今日も紫之さん来たよ」
「嘘っ」

私が返事をするより早く来てしまうなんて。
謝罪をしようと思って席を立ち急いで廊下に出れば、私に気付いた創くんは泣きそうな表情でこちらに駆け寄ってきて、抱き付いてきた。

「心配しましたぁ!連絡も無いし、あのまま死んじゃったんじゃないかと思って仕事にも集中できなくて…!いばにゃんからちゃんと家に送り届けたとは聞いてましたけど、そのまま倒れてて連絡もできないんじゃないかとか、色々考えちゃって…!」
「ご、ごめ、ん、心配してくれてありがとう…。連絡今気付いて、返事しようと思ってたとこで…」
「いいんです!芹さんが生きていてくれたならそれで…」

なんだなんだと奇異の目を向けられて顔が熱くなる。P機関前の廊下でアイドルとプロデューサーが抱き合っているなんて、スキャンダルでしかない。抱き締め返したい気持ちは山ほどあったけど、ぐっと堪えて創くんの背中を優しく撫でてあげる程度に抑えておいた。

「あの、創くん、ここだと人目が……あ」

なんて言っていたら、創くんの肩越しに見慣れた赤髪のアイドルが真顔でこちらを見ていることに気が付いた。目が合ったことに気が付くと、にこりと笑みを浮かべて敬礼をしてエレベーターの中へと姿を消していった。

「ごめんなさい!芹さんの顔見たら安心して気が緩んじゃって…!」

創くんは慌てて私から体を離したけど、手遅れな人に見られてしまった。絶対後で何か言われるやつだ。また怒られる。

「もう、体調は大丈夫なんですか?」
「大丈夫だよ、熱も無いし通常通りって感じ」
「もう無理しないでくださいね?皆心配しちゃいますから」
「…そうだね、ごめんね。気を付けるよ」

ジュンくんとか他の人たちへの返事も送っておかないと、私死んだ説が流れてもおかしくない。創くんとバイバイして席に戻り、冷静な頭でメッセージアプリを開いて既読スルーしてあるメッセージを探す。

「…ねぇ、紫之さんと付き合ってるの?」
「違いますが!?」
「そ、そんな大声出さないでよ。誰も週刊誌に言いつけようなんて思って聞いてるんじゃないんだからさ。そうなら応援してあげたいなって思っただけで」

週刊誌という単語にびびりまくってしまう。夢ノ咲出身の子たちは割りとスキンシップが激しいから、いつ撮られて売られるかわからない。

「残念だけど違うので」
「ん〜残念」

しかしプロデューサーがアイドルと恋愛となっても、応援してくれる人もいるのか。そんなのはダメで許されない行為だと思っていたけど、そうでもないと言ってくれる人もいるのか。
ふと茨くんに甘やかされたこの休日のことを思い出してしまい頬が熱くなる。あの甘ったるい空間が本物として存在したとしても、応援される可能性もゼロではないのか。
浮わついていたら新たにメッセージが来て、『許しませんよ』と一言茨くんからのものだった。どう考えてもさっきの現場に対するもので、変な汗が出るのと共に心臓がばくばくとうるさくなってしまった。やましいことなんて無いのに。


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