温かい気持ち



「可愛い…最高…」

大分前から企画していた、Ra*bitsと動物園のコラボが発表された。グッズショップやレストランでの商品展開をさせて、店内BGMをRa*bitsのものにして、一定時間ごとにナレーションを流したりなどして、一般客へもじわじわと彼らの可愛さを染み込ませていく仕様にした。

「尊い……あ、カメラさん、友也くん動物に好かれがちなので撮れ高いっぱいあると思うんで、見逃さないでくださいね」

そして宣伝のために4人で動物園ロケに来ていた。効率的な回る順番とか、見所とか、好きな動物とか、色々と紹介をする姿がどの動物よりも可愛くて最高だった。動物とふれあいができる場の紹介ではうさぎなどと戯れる皆が可愛すぎて、ロケ映像のノーカット版をデータで貰おうと心に強く誓った。
私も自分のスマホでちょいちょい皆を撮ったりもした。その最中、茨くんから『調子はどうですか?』なんて連絡が来たので、『満足です』と返し、小動物にすり寄られて動物ハーレムができている友也くんの写真を送っておいた。

「ふれあいコーナーの分撮れたらちょっと休憩挟みません?私飲み物買ってくるんで」
「はい、了解です〜」

カメラマンにそう声をかけ、さっき見かけた自販機まで向かい、温かいコーヒーとココアで人数分買って、手で持てないのでバッグに入れて皆の所へと戻った。

「お待たせしました、どうぞ」
「俺たちのも?すいません、助かります」

カメラマンやスタッフさんらにもコーヒーを渡し、Ra*bitsの4人にもココアとコーヒーを手渡した。

「ありがとうございます、寒くてちょっと冷えてきてたので嬉しいです」
「ありがとうな、暖まるよ」

皆でほっと一息休憩を入れて、そこからの撮影も順調に進み、園内を一通り撮り終わった。後はもう自由なので、カメラマンたちにお礼を言い解散した。私とRa*bitsの皆はもう少し自由に動物園を堪能してから帰ろうか、という話になった。


「に〜ちゃんどうしよう、グッズ買い占めていいかな?だめだよね、どうしよう、全部欲しいくらい可愛いよ…」
「あはは、気に入ってくれてありがとうな。でも出来上がったグッズたち、発売前に芹の手元に届いたんじゃなかったか?」
「それは全部綺麗に飾っといたから、あとは普段使う用に更に欲しい」
「保存用と実用用ってわけか」

どうしようなんてぐだぐた言いながら私の手は正直に欲しい商品をかき集め、足はレジに向かっていた。体が欲望に忠実すぎて困る。

「に〜ちゃん!俺もう一回ライオン観たい!行ってくるんだぜ!」
「あ、ちょ、光ちん!一人で行くなりょ!」

光くんが駆け足で行ってしまい、保護者気質のに〜ちゃんはそれを追いかけて消えていった。

「友也くん、僕たちも行きませんか?」
「そうだな。俺ちょっと妹とアニマルズの皆にお土産買ってから行くから、先に行っててもらってもいいか?」
「わかりました。じゃあライオン前で集合しましょうね」
「私も行く〜」

グッズショップに友也くんを残し、創くんと2人で歩いてライオンの所へ向かうことになった。

「今日は楽しく撮影できて良かったです。企画してくれてありがとうございます。芹さんのくれるお仕事、いつも楽しく快適にできちゃうんで、皆も感謝してるんですよ」
「そう?えへへ、喜んで貰えてるなら私も嬉しいよ〜」

私が観たい皆の姿を観る企画、という私の下心満載のお仕事を毎回振っているだけなのだが、それが上手くいってしまうので幸せだ。皆の楽しそうで嬉しそうな姿を観たいというのが核なので、楽しんで貰えたなら大成功だ。

「こうして2人で動物園歩くのって、なんだかデートみたいですね」
「!!??」

創くんがそんなことをなんてことない顔でさらっと言ってくるから、びっくりして言葉でうまい返事が出てこなかった。

「そうだ、デートと言えばこの前いばにゃんとショッピングデートをしたんですよ」
「えぇ、羨ましい」

自分の口から漏れた言葉にびっくりした。創くんもちょっと驚いたような表情で私を見た。まずい、なんか勘違いされたかも。

「それって…」
「いや、あの、違くて、」

なんとなく、創くんの頬が紅く染まってきたような気がする。まずい、違う、いや違わないけど、創くんとデートしたいけど、そんな頬を赤らめてもらうような、そういう恋愛的なあれじゃないんだ。

「…そういうことなら、芹さんがデートしたがってるって、それとなくいばにゃんに伝えてみますね」
「え?」
「へ?違いました?」

どうやら創くんは、私が茨くんを羨んだわけではなく、創くんを羨んだと思ったらしい。茨くんとデートしたくないわけではないが、さっきのは創くんとデートしたくて漏れた言葉で…って、これでは私がアイドル誰とでもデートしたがる欲深い女みたいだ、だめだ、許されない。

「もしかして、僕とでした?僕で良ければ、いつでもデートしますよ」
「んう、ありがとう…!」

可愛い笑顔で普通に言われて、そこに恋愛的な意味が無いことがわかってしまう。私もそういうつもりでは無いので構わないが、私がリアコファンだったらめちゃめちゃ傷ついたと思う。危なかった。

「いばにゃん、最近よく芹さんのお話してくれるようになったんですよ。仲良しになったんですね?」
「あー、そうだね、最近はお仕事の相談とかもするようになったし、仲良くなれたのかも」
「お二人とも仕事熱心ですし、お話合いそうですもんね。芹さん、最初いばにゃんのこと苦手そうだったので…仲良くなれたなら嬉しいです。これならみんな一緒にご飯にもいけますね」
「そ、そうだね。ていうか、そんな苦手そうな感じ出しちゃってた…?」

そんな露骨な態度を表に出した覚えはないのだが。無意識で周りに伝わるくらい茨くんを避けてしまっていたのだとしたら、申し訳なさすぎる。

「そういう訳ではないんですけど。Edenの人だから緊張してるのかなって思ってたんですけど、他の人とは普通に仲良さそうでしたし、何かあるのかなってちょっと心配しちゃってました」
「別に何も無いけど…ほら、茨くん、プロデューサーでもあるから、同業者って思ったら、私なんて全然だめだめだから、畏まっちゃってたかも」
「そんなことないです、芹さんは真面目で仕事もできる優しいプロデューサーさんですよ。僕たちRa*bitsだって、芹さんが寄り添って支えてくれたから頑張ってこれている訳ですし」
「あ…ありがとう、お役に立てていたなら、嬉しいです」

創くんたちの役に立てていたならそれは幸せなことだ。だが夢ノ咲に入ってからずっと、あんずちゃんの仕事っぷりを見て劣等感を抱き続けているのは事実だ。同時にプロデューサーになったのに、彼女の手掛けたTrickstarはSSで優勝したし、色んなユニットから信頼されて、失敗もほとんど無くて、茨くんからも一目置かれている。
皆から比べられるのは当然で、なんてことない振りはしていても、いつも悔しさがあった。だから、茨くんから仕事を褒められても素直に受け止められなかったし、私のダメさ具合がばれていて何か叱られたりするんじゃないかと思って、必要以上に話すのが怖かった。今はもう、そんなこともないけど。
でも、あんずちゃんとか、他のプロデューサーと比べられたりはしてるんだろうなぁと、たまに憂鬱にはなる。

「いばにゃん、芹さんのプロデュース褒めてましたよ。ちゃんと見てくれてるみたいです」
「へ」
「芹さんのプロデュースも僕たちのお仕事も一緒に褒めてもらえて、すっごく嬉しくなっちゃいました」

私の知らないところで褒めてくれるのって、それってお世辞とかじゃないし本当のやつなのでは。そう思ったらすごく嬉しくて、劣等感が少しだけ薄まったような気さえした。

「あ、光くんたちあそこに居ますね。行きましょうか」
「うん…」

気の抜けた返事をしてしまって不審に思われたのか、創くんに顔を覗き込まれてびっくりする。

「ふふ、照れちゃってたんですね」
「え、何が」
「いばにゃんに褒めて貰えたからじゃないんですか?ほっぺ、紅くなってます」
「…寒さのせいじゃないかな」
「そうですか?あ、それなら僕のカイロ使ってください。温まりますよ」

てきとーに誤魔化してみたら、創くんはポケットからカイロを取り出して、私の手に握らせてきた。その時触れた創くんの指は、ひんやりと冷たかった。

「創くんの方が冷えてるよ!私はいいから、カイロ握ってて」
「え、でも芹さんも冷えちゃうと困りますし、僕は大丈夫ですよ」
「そんな、創くんに風邪でも引かれたらカイロを貰ってしまった罪悪感に苛まれちゃうから」
「ん〜、それなら、このまま2人でカイロ握ってたら一緒に温まれますよね?」

お互いにカイロを握らせようとしてカイロごと相手の手を離さなかったため、創くんと手を繋いでいるような形になっていた。

「これは、その、人に見られるとまずいと言いますか…その…」
「創ちん〜〜、もう大人なんだから誤解されそうなことしちゃだめって言ったらりょ!?」

喋りながら光くんとに〜ちゃんの元へ近付いていたため、私たちが声をかけるより先にに〜ちゃんに気付かれてしまった。に〜ちゃんの噛むところを久々に聞いたし、私たちの繋がれた手を見てに〜ちゃんの方が照れていた。

「す、すみません!芹さんがなかなかカイロを受け取ってくれなくて…って、芹さんのせいにするわけではないんですけど!」
「いえ、私が人の厚意を受け取るのが下手くそなせいだから創くんのせいでもなくて」
「…なら、上手に受け取ってくださいね」

カイロを手に握り込まされて、創くんの手は離れていった。

「僕は芹さんと手を繋いだおかげでもう寒くないので、大丈夫です」
「…それを言うなら私も寒くないです」
「ふふ、一緒に温まれましたね」

ええもうぽっかぽかですよ、ありがとうございます。

「見てるこっちが熱いぞ…適切な距離を保ってくれ…」

嘆くに〜ちゃんには、心のなかでごめんと謝っておいた。


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