ふれあい
あのあと茨くんとは、恋人同士なら毎日連絡を取り合うんじゃない?という思い付きでプライベートの連絡先を教えてもらってしまった。
帰りはタクシーで家まで送ってもらい、茨くんに家まで知られてしまった。
翌日朝、仕事に向かう途中で茨くんに「おはよう」とメッセージを送ってみた。数分空けて「おはようございます!本日も良い天気でありますね」と返事が来て、何度かやり取りをしているうちにESビルについてしまった。完全に歩きスマホだが、通勤時間を忘れられるのはありがたかった。
「おはようございます、プロデューサーさん」
「あ、おはよう創くん。今日も可愛いね、撮影準備バッチリだね」
「ありがとうございます。今日はユニットじゃなくて僕一人のお仕事だから緊張しちゃって…昨夜はなかなか寝付けなかったんですよね」
「心配しなくても創くんならいつも通りで充分綺麗だよ。がんばろうね」
「えへへ、ありがとうございます!プロデューサーさんに良いとこ見せれるようにがんばりますね」
天使かと見間違うほどのきらきらの笑顔を見せられてキュンとする。眩しいアイドルを見られるたびに、プロデューサーになって良かったと実感する。
創くんとさよならしてエレベーターを待ち、乗り込む時には後ろから来ていた人も一緒に乗り込んできた。
「あ、茨くん…おはよ」
「おはようございますプロデューサー殿!今日も元気そうで何よりであります」
茨くんは十八階のボタンを押してから扉を閉めた。せっかくだから私もコズプロ事務所に寄ってから仕事を始めようかな。
「しかし自分が恋人になったというのに、朝から他の男と仲睦まじくお喋りをしているのを見せられるとはなかなか胸くそが悪いですね」
「可愛い創くんでもダメなんだ?ていうかこの仕事してたら他の男とも喋るしかないでしょ」
「構いませんが、他の男と喋ったらそれ以上に自分とも喋ってくださいね?」
「…いいけど」
茨くんでも可愛いこと言うなぁなんて思っていたら、食堂の階でたくさん人が乗り込んできた。邪魔になりそうだったので詰めようと思ったら、逆に茨くんが寄ってきて角に追い詰められ、手を握られた。びっくりして茨くんの顔を見上げたが、茨くんは何てことない顔で私をチラリと見るだけで、その手を離してくれなかった。
途中の階で人が降りて減るときにやっと手を離されて、手汗をかいていたことに気付いて焦ってしまう。
「プロデューサー殿は、今日の予定は?」
「へ、あ、創くんの撮影でスタジオ行って…午後終わったら写真チェックとかそのへん」
「では今からはどちらへお向かいで?」
「みかくんに衣装の案に使えるかもしれない資料とか持ってきたから、それだけ渡しに行こうと思って」
「それなら自分に頼んでくだされば持っていって差し上げたのに」
「いやいや、茨くんにそんな雑用させられないよ」
アイドルに、副所長に、雑用させてお手を煩わせるわけにはいかない。ただでさえ朝からメールをしあったりとかで時間を使わせてしまってるんだから。
「律儀な方ですねぇ」
そうでもないんだけどなぁ。否定するほどのことでもなかったのでやめておいた。
十八階に着いてエレベーターを降りて、解放感から少しほっとする。
「では、お互いにお仕事頑張りましょうね、芹さん」
名前を呼ばれてびっくりして、茨くんを見上げてしまう。プロデューサーではなく名前を呼ばれたのなんて、高校の時ぶりではないだろうか。
「嫌でしたか?」
「え、あの、嫌じゃないよ…。びっくりしただけ。がんばろうね」
「はい」
茨くんはにこりと微笑んで、凪砂くんの方へと真っ先に向かっていった。戸惑いつつも、私はみかくんのもとへと向かい、いつも通りの業務に取り組んだ。
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