いちばん好きだよ
ライブ終わりにどうにかしてEdenの皆に会いに行けないかなぁなんて淡い期待を持っていたのだが、隣の子から感想会しませんか!?と食い気味に言われて、かわすこともできぬままカフェへと連れ込まれた。私も本人たちにぶつけるにはきもいほど熱い感情がありすぎたので、同じ関係者でありファンの立場でもある彼女と感想を言い合えるのは救いでもあった。
彼女のジュンくんへの熱い想いを受け止め多少の罪悪感に苛まれながらも楽しい時間を過ごし、連絡先も交換した。世に出回っていない茨くんの写真も貰える約束もできてしまったし、今日はとても良い1日であった。
解散して帰ろうと思ったら、スマホに着信があった。見れば茨くんからで、電話に出て人混みから離れられそうな方へと移動した。
「お疲れ様!」
『えぇ、お疲れ様であります!本日はご来場頂き誠にありがとうございました』
「そんな100%お仕事挨拶やめてよぉ」
『すみません、先ほどのライブの名残が』
その挨拶は会場アナウンスで聞いたばかりだよ。
『それより、今はどちらに?もうご帰宅済みですかね?』
「ううん、コズプロの子とお茶してたからまだ外だよ。これから帰るつもりだったけど…どうかした?」
『こちらも反省会等が済んで今解散したところでして、貴方がお手隙のようでしたら夕飯をご一緒できないかと思ったんですが、いかがでしょう?』
「行く!」
『清々しいご返答感謝致します』
浮かれて即答しすぎたかもしれない。
それからお互いの場所を伝えて、ちょうど真ん中あたりの地点で集合することになった。
今日こそ茨くんと最後のデートかな、なんて思ってまた悲しくなってしまった。
「Edenのライブほんとすごかったよ〜〜、さっき感想会してめちゃめちゃ語り合ったのにまだ語り足りないくらい…」
思う存分喋れるようにか、料亭の個室で夕飯を食べることになった。毎度のことながら、高そうなお店でちょっとびびる。
「ご満足頂けたようで何よりであります。こちらとしても、芹が手持ちのサイリウム全てを自分色に光らせてくれていたのが嬉しかったですよ」
「……ばれてた?」
「もちろん。それが見えたからドキュンと1発お見舞いして差し上げた訳ですしね?」
「えぇ、その節はどうも……ファンサとても心にきました。感動して涙が止まりませんでした」
いやもう本当に恥ずかしい。茨くん本人にEdenで一番推しが茨くんだなんて今まで言ったことないし。自分でもあんなに喜んでしまうほど茨くんへの熱い想いがあったなんて初めて知った。
「一応確認ですけど、忖度したとかでなく、本心でサイリウムとうちわを自分宛にしてくれたんですよね?」
「当たり前でしょ、ファンとして茨くんのこと一番好きだし、応援したかったし…」
「ファンとしても恋人としても愛して頂けるだなんて、俺は世界一幸せかもしれませんねぇ」
「全アイドルでの一番は創くんだけどね」
「余計なこと言わないでください」
ふん、と少し怒ったように目をそらされる。私だって余計なことは言いたくなかったが、訂正してやらないと私がただ一番茨くんのことが大好きみたいで恥ずかしかった。
「まぁでも、本心でああしてくれたのなら結構であります。他のメンバーが貴方のサイリウムを見て悔しがっていましたからね、誇らしかったですよ」
「あ、みんな見てたの…」
「もちろん。前方で4本も同じ色を掲げる人は目につきますからねぇ?」
ジュンくん、どう思っただろうか。茨くん推しだとかいうことは知らないはずだし、恋人契約のあれそれで匂わせ行動してるみたいなやらしい感じに見えたりしてないだろうか。サイリウムに関しては純粋に推しているだけだから許して欲しい。
「あ〜〜なんか恥ずかしい、茨くんのことめちゃ推してるのEden全員にばれちゃったってことだよね…」
「そうでありますね、自分も初めて知ったので驚いていますよ。芹はてっきり閣下を推して頂いているのかと」
「へ、なんで?いや、普通に好きではあるけど。他の2人と同じくらいには」
「…この前、閣下に可愛いと言われ頭を撫でられ赤面されていたので…?推しでないなら男として意識した結果があれでした?」
男として、なんて言い方をされるとびびってしまう。そういう恋心的なあれであれしたわけではない。
「茨くんが磨き上げた美形にああされたら、大体の女性は照れるよ…」
「それもそうでありますな!あっはっは☆」
笑い飛ばされて、からかわれただけだと気付く。私の微かな女心をいじめるのはやめて欲しい。
「だとしても、少し妬いてしまいましたよ」
「……」
「おや、無視ですか?」
「いや、ごめん、今日はファンの感情になりすぎてたから、ファンサ受ける気持ちになっちゃってて、噛み締めてた」
「何ですかそれ」
アイドル七種ありがとうの気持ちでいっぱいで、恋人として受け止められなかった。気持ちを切り替えなければ。
とはいえ、恋人モードに戻ったところで、三日以内くらいにはまた恋人感情を殺さなければならないんだ。
「あと数日しかないんですから、最後まで恋人としての七種茨を見ておかないともったいないですよ」
茨くんはそう言いながら、デザートのアイスをすくったスプーンを私の口の前に差し出してきた。
「こんなこと、ファンサではしませんからね」
「…はい、ありがたく頂戴します」
間接キスだなぁなんて思いながらそれを食べれば、バニラの甘さが口に広がった。ひんやりと冷たくて美味しい。
「…実際のところ、あと何日あるの?」
「そうですね…、明日と明後日撮影をして問題なければもうそれが最後ですかね。天候にも左右されますし、問題があれば前後するかもしれませんが」
「そっか…もうすぐだね、寂しくなるね」
「そうですねぇ」
せっかくこんなにも楽しくて幸せな時間を得られたのに、終わってしまうなんて。おはようからおやすみまで全部、侵略されていたのに。
「芹は明日お休みでしたよね。ご予定は?」
「…無い」
「撮影がもし明日で終わらなかったら、夜また会って貰えませんか」
「良いけど…ほんとに撮影が終わるまでずっとこの関係続けるんだね?」
「迷惑でした?」
「や、そういうわけじゃなくて!」
茨くんの方も、許されるギリギリまで恋人でいたいとか、そう思ってくれているのではと淡い期待を抱きそうになっただけだ。
「ここまでずっと、貴方が傍に居るのが当然という生活をしてきましたからね。撮影途中でその恋人を失ってしまって調子が狂ってしまっても困りますし」
「私も茨くんに影響与えれてるってことだね?」
「そうですね。ここまで芹と過ごした時間、決して無駄ではありませんでしたよ。有意義だったとも言えますね」
はじめはどうなるかとも思ったけど、私に価値を見出だして貰えて良かった。時間の無駄だったなんて思われなくて本当に良かった。それだけでもう、私は満足するべきなのかとしれない。
「ただ…明日順調にいって全ての撮影が終了してしまったらそのまま打ち上げなんてことになるかもしれません」
「いいよ、私どうせ暇だから。会えるかどうかまた連絡してよ」
「最後まで振り回してしまい申し訳ない。わがままに付き合って頂きありがとうございます」
「いいよ。私もいっぱい茨くんのお世話になったしね」
仕事上あまり関わりがあるわけでもないし、今後茨くんから何かお願いされることもほとんど無いだろうし。そんな貴重な茨くんからのおねだりならいくらでも聞ける。
「撮影、がんばってね。映画楽しみにしてるから」
「ありがとうございます。芹にこれだけ協力して頂いたんですから、これが俳優七種茨の代表作と言われる出来に仕上げてきますよ」
「はは、そうなったらこれからも恋愛映画とかドラマのお仕事じゃんじゃん入ってきちゃうね」
「そうですねぇ、選り好みはあまり良くありませんが恋愛物は避けたいですね。なかなか難しかったので」
それは映画での演技のことを言っているのか、それとも私との恋愛ごっこのことなのか。両方かな。
「監督に演技怒られでもしたの?」
「…多少。主演の男に嫉妬する目付きが悪すぎて、殺しそうな顔をするな、なんて言われましたね」
「ふふ、茨くん目付き悪い時すごい悪いもんね」
「そうでしょうか?それは気を付けないといけませんね」
どうかこのまま、この関係が終わってしまっても、友達として、仕事仲間として、仲良くして欲しい。この態度も全部が演技だったなんて言わないで。難しくて面倒な恋愛事を避けたいがために私を避けるなんてことにならないで欲しい。これが終わったら恋愛感情なんて殺すから、どうかお願い。
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