誓います
茨くんはすぐにタクシーで私を拾いに来て、「お疲れ様であります、プロデューサー殿」と挨拶だけして特に行き先を告げることもなく黙ったまま、私を個室のお高そうな店へと連れ込んだ。緊張するからもっと安そうな庶民的なお店に連れていって欲しいのだが、稼ぎの良い七種茨様からしたらそんなところには行くつもりないのだろう。
「茨くん、お仕事よかったの?切り上げちゃって」
「恋人との一大事ですよ?仕事なんかに集中できないに決まっているではありませんか」
ジュンくんとゲームして喫茶店に行ったことは全く下心なんて無いし浮気なんかじゃないのに。一大事だとか言われたら罪悪感か沸いてしまう。
「…ごめんね?」
「おや、悪いことをした自覚はあったのでありますか?」
「……」
「無いのにこの場を収めるためだけに謝るのはいかがなものかと思いますが」
何を言っても怒られそうで困ってしまう。もしかして謝罪よりも反論されるのを望んでいるのだろうか?いやでも、茨くんに反論なんておそれ多いんですけど。
「…ごめんね、どうしたらよかった?」
「根本的な問題としては、貴方が彼氏という存在が何なのかを意識していればよかったといったところですかね」
「…彼氏とか彼女とか、よくわかんなくて、だからジュンくんに相談してたの。茨くんにもっと彼女らしいことしてあげたいなって思って…、茨くんのこと私よりジュンくんの方が知ってるから…」
無理して反論するよりも、正直に吐いてしまおうと思った。たぶん茨くん相手になにか取り繕ったところで全て暴かれてしまいそうだし。
「私は甘いもの好きだから、茨くんも甘いの好きだったらデートするとき一緒に食べれるなぁって思ったから、知りたかったの」
結局、甘いものが好きかどうかは教えてもらえてないし。茨くんのことはわからないままだ。
「…好きですよ」
「へ」
「甘いもの。今度、一緒に行きましょう」
突然の「好き」にドキッとしてしまった。
「意地悪を言ってしまい申し訳ありません。しょぼくれる貴方が可愛らしかったので、つい」
「…わざと怒ったの?」
「言い方は悪いですがその通りですね。貴方が何も考えずただジュンとデートをしてきたのだと思ったら腹が立ってしまったので。ですが…俺のことを考えてくれていたのだと聞いて、安心しました。嬉しいですよ、俺のことで悩んでくれて」
茨くんにしては柔らかく微笑んできて、なんだかむずがゆくなってしまう。そんな顔普段しないくせに、2人きりの時だけ見せるなんて卑怯だ。
「…じゃあ、許してくれる?」
「そうですね、仲直りといきましょうか」
「うん」
本気で怒られなかったことにほっとする。まだ、見捨てられずに済んだ。
「…ただ、貴方は浮わついた気持ちは無いと仰っていましたが、相手に下心が無いとは限りませんからね。ジュンだけでなく、他の男達も」
「そんな、私なんかに」
「私なんか、なんて卑下した物言いはやめて頂きたい。俺が選んだ女性ですよ、自信を持ってください」
そうは言うけど手頃なプロデューサーだから選ばれただけだし、今だってまだ彼女としての役に立てていない。女としての自信なんて持てるものか。
「貴方のプライベートにまで口を出すようで心苦しいですが、自分と過ごす期間に他の男に惚れるのだけはやめてくださいね。こんな俺でも傷付くかもしれないので」
「…そうならないように、茨くんに惚れさせてよ」
「善処します。放置すると他の男とデートされてしまうので」
「あ、まだ怒ってる」
まぁでも茨くんと続くであろう数ヶ月くらい、男性と二人で出かける機会に注意すればいいだけだ。今までだってそんな機会そうそうあるわけでもなかったし、何とか避けられるだろう。
「もう怒ってませんけど、貴方も一端の女性なのですから危機感は抱いて頂きたい。どこの誰が貴方を狙っているかわかりませんからね」
「…気を付けます」
「解ったなら、俺のことだけを見ていてください。貴方にお付き合い頂く期間、後悔なんてさせませんからね」
真面目にそう言われてしまったので、私は大人しく茨くんのことを好きだと思い込んで彼女をしようと改めて考えた。この歪な関係を終わらせるときに名残惜しくて寂しくなるくらい、茨くんにも私のことを意識させてみせないと。
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