貴方も推し


「はい?日程変更?いやいや、その日はダメって言ったじゃないですか、え、創くんは良いって?いや!だから!私抜きで日程決めないでいただけますかって初めから何度も伝えてますよね私?誰がこの企画したと思ってるんですか、私ですよ私!」

色んな仕事に追われてイライラしていたときに、リズリンの別のプロデューサーから連絡が入ってつい怒ってしまう。

「ええ!ですから何度も申し上げてますよね、失礼ですが貴方よりも私の方が創くんのことをよ〜〜く知っているので、勝手に撮影とかしたら純粋に怒りますからね!日程変更はしません、貴方が元から決まっていた日程に合わせて調整してください!これ以上意見があるなら今からリズリンの事務所行きますがどうしますか?いらない?じゃあ元通りの日程でよろしくお願いしますね!では!」

社員食堂でノートパソコンを開きながら日替わりランチを食べているが、もう15時だ。ランチ時間外だったがニキくんに泣きついて特別につくって貰ったので、いつかお礼をしなければ。
変な時間だったおかげで食堂がすかすかでよかった。混んでいるときにこんなに怒っているところを大勢に見られたらさすがに恥ずかしかったし。

「貴方がそんなにも激昂するなんて珍しいですね。噂には聞いていましたが、見るのは初めてですよ」

ノートパソコンに向けていた顔を上げれば茨くんがいて、ご飯の乗ったトレイを私の前に置いて腰かけた。

「あれ、今お昼?遅かったね」
「日替わりランチを食べている人の台詞とは思えませんね」
「茨くんはランチじゃないんだ」
「時間外ですからね、そんな迷惑な注文はしませんよ」

茨くんみたいな人がオムライスを食べるのはギャップで可愛く思えてしまう。ニキくんの嫌がらせなのかサービスなのか、オムライスにはケチャップでハートマークが何個も描かれていて可愛かった。

「さっきの電話、紫之氏の仕事の件ですか?」
「そーそ、年上のプロデューサーだったんだけど、理由も言わずに撮影の日程変更したいとか言ってきて。スタジオは押さえてあるしメイクさんとかカメラさんとか全部私が手配したってのにその苦労も考えずにさ、私が年下だからってハイハイ言うこと聞くと思ったら大間違いなんだよね」
「貴方も大変ですねぇ」
「…まぁでも、イライラしててきつく言っちゃったから、後で謝るけど…」

だからと言ってこれ以上の調整はできないけど。

「紫之氏と随分仲がよろしいようで。貴方よりもよ〜く知っているなんて台詞なかなか出てきませんよ。自分はEdenのメンバーの仕事でしたら言う機会もあるかもしれませんが」

なんだか刺さるような物言いで、キーボードを叩く手を止めてちらりと茨くんを見れば、オムライスを頬張りながらも私をじっと見つめていた。

「…、いやぁだって創くん、夢ノ咲の頃からの最推しだし?ユニット結成から見守り続けてきた私としては、自分が企画した創くん写真集によそ者に手を出されたくないと言いますか…」
「プロデューサー殿にも最推しなんてくくりがあったのですね!いやぁ、それがEdenでもなく七種茨でもないのは悔しいところですね」
「いや、だからと言ってEdenのこと推してないわけじゃないよ?好きだよ?ただその、Edenは近付かせて貰えないから一歩引いちゃってるだけでね?」
「では今度、Edenの仕事に同行しますか?」

今なんて?Edenの仕事に?私が一緒に?

「いいの!?!?!」
「夢ノ咲の皆さんを愛する貴方が我々のことだけ愛してくれないのは寂しいですからね。それを機に貴方が良いお仕事を我々の元へもってきてくだされば願ったり叶ったりであります」

今まで何の手出しもさせてくれなくて、それとなくジュンくんに頼んだらやんわり断られて以降、Edenのお仕事には全くと言っていいほど関われなかったのに。今になって、そんな特別扱いをしてくれるなんて。

「まぁ、同行するだけなので本当に見学しかさせませんがね」
「いいよぉ!Edenの舞台裏見たいもん!前日は9時間熟睡して万全の体制で挑むね!」
「楽しみにして頂けたようで何よりであります」

創くんの件でとやかく言われそうな雰囲気だったが、なぜか私に嬉しい話をしてくれてほっとした。凪砂くんの切り替えとか、茨くんの立ち回りとか、テレビに映らない部分を堪能したい。
嬉しいなぁなんて思いながらランチを食べ進めていたら、机に置いてあったスマホの画面に茨くんからのメッセージが表示された。ちらりと見れば茨くんは食べながらスマホで入力を続けていて、なんだか嫌な予感がしながら指紋認証でメッセージを開いた。

『それはそれとして、紫之氏とそういう関係だったりしませんよね?』

私が創くんを贔屓ぎみなせいであらぬ疑念を向けられている。茨くんとの仮恋人関係にはかかわらず、普通に怪しまれている気がする。

『ありません。清いアイドルと清いプロデューサーです』
『この七種茨に誓いますか?』
『誓います、やましい気持ちはありません。ただの最推しアイドルです』

私をどう思おうが勝手だが、清い創くんにその疑いが向けられるのはどうにか阻止しなくては。私も言動には気を付けよう。

「そうだ、来月のEdenのライブ観に来てくださいよ。関係者席に来るはずの方が来られなくなったと連絡があって一席空いてしまったので」
「い…いいの?関係者ってだってそれ、VIP席のやつ…え、いくら?四万円で足りる?」
「そんな転売みたいな値段で自分のチケットを売り付けるとお思いですか?余っているからあげると言っているんですよ」
「え、神…?」
「神ではなくただの毒蛇ですよ。手が空いたときにお渡ししますね」
「ありがと〜〜!嬉しい!Edenのライブいっつも全然チケット取れなくてすごい遠くからしか見たことなかったんだよねぇ」

いつもオペラグラスでしか認識できなかった表情を、VIP席なら生で、肉眼で見れてしまう。今だって生で茨くんや皆を見れたりしているが、舞台上の彼らはそれとはわけが違う。

「来たかったなら、もっと早く仰って頂ければ関係者席でも舞台袖からでも観ていただいて良かったのに」
「えっ、頼んだら了承してもらえたの…!?」
「検討くらい致しますよ。しかし今まで頼まれなかったので」

そうだったのか、敵視されたり嫌われたりされていると思っていたから、そんな考え思い付かなかった。

「仕事の手も食事の手も止めて喜んで頂けるならアイドル冥利に尽きます」
「んあ」

目の前ではしゃいでしまって恥ずかしかったな。ちょっと照れ隠しに残りのご飯を食べていたら、またスマホに通知が来る。

『七種茨のことも推してくれると嬉しいです』

なんて書かれていて、可愛いやつめと思ってしまう。Edenでは元から茨くん最推しだよ、というのは恥ずかしいのでしばらく教えないでおこう。

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