天使の戯れ
遅めのランチを食べ終えてそのままキーボードを叩いていたら晩御飯組がそこそこ食堂に集まってきたので私も場所を移ることにした。
スタプロの休憩所に行けば、ソファが空いていたのでそこで仕事の続きをすることにした。
「あれ?芹今日はここでお仕事?」
「そうそ、ここなら桃李くんに会えると思って」
「ふ〜ん、忙しくても僕には会いに来てくれるんだね?そんなお疲れの芹には膝枕をプレゼントするね」
えっ桃李くんに膝枕してもらえるの?なんて心がざわついたが、桃李くんは私の座るソファにごろんと横になり、私の太ももに頭を乗せた。
「芹、目の下に隈できてるよ」
「うそ、隠したつもりなのに」
「ちゃんと休めてる?僕が癒してあげるから元気出してね」
にっこり笑顔で私の頬を撫でてくれる。やばい、可愛すぎて元気出た。プロデューサーしていてよかった。
「桃李くんはほんとに可愛いね、しばらく頭撫でててもいい?」
「ふふん、しょうがないなぁ。存分に癒されてよね?」
「ありがとう天使…」
左手で桃李くんの頭を撫でながら、右手のみでキーボードを叩くことにした。打鍵速度は明らかに落ちたが、桃李くんの香りと存在で疲れメーターが下がっていくのがわかる。あまり効率が良くないような気はするがこのまま続けよう。
「芹様、ぼっちゃまがお仕事の邪魔をしてしまい申し訳ございません。紫之様特製のブレンドティーをお持ちしたので、是非召し上がってくださいまし」
「え!!ありがとう天使…」
「ちょっとぉ、誰のことも天使とか呼んでるの?」
「や!あの!fineのお二人が尽くしてくれるここが天界なのかと勘違いして思わず弓弦くんのことまで天使とか呼んじゃった、ごめんね」
急いで謝っても桃李くんはむすっとしてしまうし弓弦くんにはくすくすと笑われる。疲れているときは一呼吸置いてから喋るようにしないと危ないな。
「もー怒った、堕天使の僕はスキャンダル起こしてやる〜!」
がるる、と吠えられてどうしようかと思ったら、桃李くんは起き上がり私を見て、いたずらっ子みたいな笑みを浮かべて、思い切り私に抱きついてきた。ぎゅうう、と締められて苦しいどころか幸せすぎて本気で召されるかと思えてしまう。ぼっちゃまと密着してごめんなさい弓弦くん、貴方のぼっちゃまは天使です。
「どーお?びっくりした?もう僕しか見えないね?」
「ひゃい…」
抱き締め返す余裕は無く、びっくりしている間に桃李くんは私から体を離した。
「今追われてるお仕事片付いたら、また僕とのお仕事企画してよね。ばいば〜い」
にぱっと神々しい笑顔を残し、桃李くんは去っていった。放心状態の私は仕事に戻れずにソファに倒れこんでしまった。
「うらやましい限りですよ、芹様」
「はい…私は幸せ者でございます…」
「おまけに弓弦も膝枕とハグの方を致しましょうか?」
「ひぇ、弓弦くんみたいな人にそんなことされたら照れちゃうから、だめだめ、ありがとう、お気持ちだけ貰う」
「それは残念でございます。ぼっちゃまの余韻に浸るのはよろしいですが、せっかく淹れたブレンドティーが冷めない内にお飲みくださいまし」
「は!飲む飲む!」
弓弦くんが淹れてくれた創くんのブレンドティーという豪華なものを無駄にするわけにはいかなくて、慌てて体を起こしてそれを口にした。
「最近気になることがあるのですが、1つだけお伺いしてもよろしいですか?」
「ん、なぁに?」
「茨と仲良くなったのですか?」
なぜばれた、と顔に出てしまった気がする。自分の演技力の無さが情けない。
「茨が、貴女を見かけると絡みに行く姿を何度かお見かけしましたので。何か意地悪でもされていないかと心配で心配で」
「いやいやぁ、優しくして貰ってるよ。お仕事の相談したりとか」
「…いつの間にそのように仲良しになられたのか疑問は残りますが、聞かないでおきましょう。仕事の相談なんて茨にしたら弱みに漬け込まれるかもしれませんのでお気をつけてくださいまし。弓弦は芹様が心配でございます」
弓弦くんと茨くんの関係をいまいち解っていないが、昔からの顔見知りなのは何となく知っている。やはり茨くんは警戒しないと危ない人間なのだろうか。
「ごめんね、心配ありがとう」
「いえ。わたくしたちはもう帰りますが、芹様はまだお仕事を続けられるのですか?」
「うん、まだ終わんなくて…」
「左様でございますか。お体を壊さぬよう、ご自分を大事にしてくださいまし。倒れられたらわたくしと敬人様でお説教に向かいますからね」
「あはは、たまにはそれもいいかもね」
「芹様」
「えへ、冗談だよ」
でも本当に体調には気を付けないとな。隈くらいは完全に消さないと、ばれたときにまた心配されてしまうし申し訳ない。
「では、お先に失礼致します」
「うん、お疲れさま!」
「お疲れ様です」
ばいばいと手を振って弓弦くんとさよならをする。もう夜の七時だし、皆帰って晩御飯かな。私はさっきランチを食べたばかりな気がするし、お腹も空いていないからまだ働ける。
そのまま仕事を続けていたらスタプロの皆様はほとんど帰って行ってしまい、「すみません、施錠したいんですがどうされます…?」なんて腰を低く聞かれてしまい、あわててエレベーターに乗り込んで夜八時。
咄嗟に社員食堂の階を押して移動すれば、食堂はほとんど電気も消されていて薄暗かった。
「あれ?芹さんまだお仕事してたんすか?」
「う、うん、ニキくんもう帰るとこ?」
「そうっすよ、ノートパソコン抱えてまさかまだ続ける気っすか?」
「えへへ…」
「駅までなら送るっすけど、一緒に行きます?」
「……」
家に帰ったらぐーたらしちゃって集中できないし、あと1時間くらいやっていきたい。しかしESビル内の居場所がどんどん閉められていて、行き場がない。
「…あ!副所長ならまだいると思うっすよ。今日は帰れる気がしないとか何とか言ってたんで」
「それはいいね!お邪魔してこよ。もう夜なんだからニキくん気をつけて帰ってね」
「それはこっちの台詞ッスよ。副所長が送ってくれないなら芹さんはすぐ帰るっすよ〜?」
「はーい。じゃ、お疲れ様ね〜」
「お疲れっす〜」
私はもう一度エレベーターに乗り込んで、18階のボタンを押した。
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