君のための嘘



昼食を食べ終えて自由行動になろうとしていた頃、突然狛枝くんに名前を呼ばれた。隣の席にいたわけではないからそこそこ大きな声であり、みんなにちょっと注目された。

「今日僕とデートしようよ」

狛枝くんの突然の誘いに、固まった。もちろん周りのみんなもびっくりしていて、戸惑った。

「狛枝、せめてお出かけって言ったらどうだ」
「僕が遠野さんとしたいのはお出かけじゃなくてデートだから」

日向くんの突っ込みにもめげず、狛枝くんはそんなことを言う。私とデートって、狛枝くんってば何が目的なの。デートって、だって…え、デートって何?

「だめ…かな?」

だめじゃないけど、皆の前でデートに誘われるこの状況がダメすぎる。普通に恥ずかしい。いいよーなんて軽く返事したくないし、ハードルを上げないで欲しい。無理。

「積極的な凪斗ちゃんなんて初めて見たっす!」
「がっはっはっは!青春じゃのぉ!」

ごめんね狛枝くん、私は恥ずかしくて耐えられそうにないので断らせてください。

「あの、私今日は…」
「遠野は俺と出かけんだよ。残念だったな狛枝」
「和一ちゃんが空ちゃんとデートっすか!?」
「うっせ、デートじゃねーよ!勘違いすんな!」

左右田くんはコップに残っていた飲み物を一気に飲んで、「行くぞ」と言ってレストランを出ていこうとした。

「こ、狛枝くん、そういうことだから、ごめんね!」

左右田くんと約束をしていた覚えは無かったが、この状況から逃げ出すチャンスだったので左右田くんを追い掛けた。
レストランから外に出てしばらく歩いていたら、左右田くんは立ち止まってゆっくり振り返った。


「…こ、これでよかったか?」
「え?あ、助かったよ!ありがとう」
「はーー…ならいいや、困ってるように見えたから嘘ついてやったけど、狛枝とのデート望んでたらどうしようかと思ったぜ」
「別に望んではいないからね…大丈夫だよ」

狛枝くんにはちょっと申し訳無く思うけど、人前で恥ずかしげもなくデートとか言われたらさすがに困ってしまう。左右田くんが気付いてくれてよかった。

「左右田くんこそ、よかったの?誰かと約束してたりとか…」
「あー…おう、大丈夫だ。気にすんな!それより、ああ言っちまった手前、行くしかねーだろ。どっか行きたいとこあるか?」

言葉を濁したような気がする。本当は誰かと出掛ける約束してたんじゃないのかな。

「なんかごめんね」
「何謝ってんだよ」
「…ごめん」
「だから謝んなって。…もしかして、遠野も先約があったんじゃ…」
「そ、それは無い!無かった!だから困ってたんだよ」
「そ、そうか?」

また左右田くんに気を遣わせてしまった。というか、遠野も…って、やっぱり左右田くん、先約があったんだ。誰だろう。左右田くんのこと怒らないでくれるといいけど。

「それじゃあ、今日は左右田くんの行きたいとこ行こう。どこだって付き合うよ」
「え、いいのか?」
「うん、いいよ」
「…軍事施設、とか、いいか?」

左右田くんは言いにくそうにそう答えた。たしかに女の子はそこに行きたがらないかもしれないけど、そこまで気にしなくてもいいのに。

「いいよ、行こうか」

左右田くんが行きたいならいいんだよ。私だって、図書館に付き合ってもらったりとかしたんだから。

「ほんとにいいのか?遠野があんなとこ行っても面白くないんじゃ…」
「一人じゃ面白くないだろうけど、左右田くんが一緒だから別にいいよ。あそこ好きなんだよね?」
「…好き」
「それならいいの」

渋っている左右田くんを置いて歩き出せば、すぐに左右田くんはついてきた。
初めて左右田くんを見たときはあんなに怖くて関わりたくなかったのに、今じゃ全然怖くないし、情けないところをよく見かけるせいか、親しみやすさを感じていた。

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