ついでにおすそ分け



採集も済んで昼食後、ソニアちゃんと二人で買い出しに行き、材料を揃えた。今日はソニアちゃんのリクエストでガトーショコラに挑戦することになった。
この前みたいに大人数じゃないからソニアちゃんの行動を見ていることができて、失敗を防いできちんと手順通りに作り上げることができた。
この前よりもソニアちゃんはにこにこしていて、やっぱりレシピを読む手伝いよりも製作の方が楽しめたようだ。誘ってよかった。


「遠野おねぇー、今度あたしにもお菓子作り教えて」

夕飯よりも少し早い時間に女の子たちに集まってもらって、一緒にガトーショコラを食べていた。そしたら日寄子ちゃんがちょっと照れ臭そうにお願いしてきた。

「いいよ、一緒にやろう」
「本当!じゃあ食べたいお菓子選んどくね!」
「また作るならオレの食う分も作ってくれよ!」
「はーい」

少しずつだけど、皆と仲良くなれてきているように感じて、胸が温かくなった。
食べ終わっても皆で喋っていたら、夕飯を作りに来た花村くんにガトーショコラのことがばれてしまい、口封じのために余っていた一切れを差し出した。他の男の子たちの分は無いから特別だよ!と言えば、嬉しそうにそれを食べて、夕飯作りに取り掛かってくれた。



その日の晩、冷蔵庫の奥に隠していたガトーショコラの最後の一切れを持ち出して、左右田くんのコテージへと足を運んだ。しかし、呼び鈴を鳴らしてもドアをノックしても物音一つしなかった。お風呂だとしても呼び鈴が聞こえないわけないし、もしかして部屋にいない?

「遠野か?人の部屋の前で何してんだ」

少し離れたところから、左右田くんの声がした。声の方に顔を向けると、左右田くんだけでなく日向くんもいてこちらを見ていた。反射的に、手に持っていた物を隠してしまった。
日向くんはその私の行動に気付いたのか何なのか、「またな、左右田。遠野も、おやすみ」と言って立ち去ろうとしたので「おやすみ」と返しておいた。


「…で、どうしたんだよ」
「えっと…ちょっとだけ、お話があって。ほんとに、ちょっとだけ」
「…あがってくか?」
「う、うん」

あがっていけと言わせているような感じになってしまって、なんだか気まずい。中に入れてもらってから、後ろ手に隠していたタッパーを左右田くんに差し出した。

「今日、ソニアちゃん取っちゃってごめんね。これ、ソニアちゃんと二人で作ったから、50%くらいはソニアちゃんの手作りです」

いきなりすぎたのか、左右田くんは目を丸くして驚いていた。けどすぐにハッとしてそれを受け取ってくれた。

「…これ、俺のために?」
「別に、左右田くんのためっていうか…ソニアちゃんのためだよ。ちゃんと、ソニアちゃんにも楽しんで貰いたかったから」
「なんで俺にくれるんだ?」
「え?…だって、この前の、ソニアちゃんの手作りだと期待させといてガッカリさせちゃったし…。申し訳なかったから、その、せっかくあるからと思ったんだけど…いらなかった?」
「そ、そんなわけねーだろ!嬉しいに決まってんだろ!びっくりしただけだ。ありがとな!」

それならよかった。余計なことをしたのかと思って不安になったよ。

「あ。それ他の男子には内緒だからね?女子にしかあげてないから」
「お、おう、わかった」
「…それじゃ、帰るね。また明日」
「おー…また明日な」

あんまり長居するつもりもなかったし、早くガトーショコラを食べてほしかったので早々に退散することにした。

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