君の手の温かさに
「ねー左右田くん、一つ野暮なこと聞いてもいい?」
「なんだ?」
私と左右田くんは、今日は砂浜に遊びにきていた。本当は砂のお城を作ってみたかっただけだから一人でよかったのだけど、遊びに誘ってくれた左右田くんが俺も付き合うと言ってくれたので二人でお城を作っていた。
「最近、ソニアちゃんと遊んでなくない?」
「…そんなの最近に始まったことじゃねーよ」
聞き方が悪かったようだ。そういえば初めからソニアちゃんには相手にされていなかったんだ。
「変なこと聞いてごめんね」
「…別に」
ソニアちゃんに対して盲目だった気がするのに、最近の左右田くんは、ソニアちゃんと少し距離ができたような気がする。断られ続けて心が折れたのかな。
「あー!くそ、丁寧に城なんか作ってられっか!トンネルがある方がかっこいいから俺は掘るぞ!いいな!?」
「あ、うん。私も城なんかできる気がしなくてさっきからトンネル掘ってた…」
「はぁ?オメーが城って言い出したくせに」
「ご、ごめんって。でもほら、トンネルある方がいいんでしょ?トンネル作ろうよ」
高校生にもなって男女が砂で遊ぶのはどう考えても頭が悪いが、この島に大したものがないのが悪い。私はごまかすように笑って城の壁を掘り始めた。
「…遠野ってほんと、子供っぽいよな」
「…悪口?」
「褒めてる」
子供っぽいってどう聞いても悪口なんだけどな。砂のお城とか言い出したからそんなこと言われるのかな。
「子供っぽいから、遊んでてすげぇ楽」
じゃあ左右田くんは子供と遊ぶお兄ちゃんかな?それにしては情けなくて泣き虫だから、左右田くんも子供っぽいと思うけど。
「どうせ子供ですよーだ」
「拗ねるなって、褒めてんだから」
「褒めてるようには聞こえないもん」
どんどん掘り進めてもトンネルがまだ貫通しないし、いらいらする。左右田くんちゃんと掘ってるのかな。
「ソニアさんみたいな人追い掛けるより、遠野とだらだら遊んでた方が気楽だなーって思って」
「…何それ?」
「いや、深い意味はねーよ。そのままの意味」
ソニアさんに断られ続けて疲れてるのかな?もしかして狛枝くんのことも4回くらい断り続けてるけど、こんな風に落ち込んでたりするのかな。だとしたら、申し訳ないかも。
「まぁ、元気出しなよ。私が遊んであげるからさ」
「はー…そりゃありがてぇな」
適当なことを言いながら掘り進めていたら、トンネルが貫通した。知らずに延びてきた左右田くんの手が私に触れたので、驚かせようと思って思いきり握ってみた。
「うわあっ!!」
「トンネルできたね!」
嬉しかったのに、びっくりした左右田くんがトンネル内のどこかに腕をぶつけたのか、砂が落ちてきて、私たちの手もトンネルも埋められてしまった。
「もー、左右田くん何してんの!」
腕を砂から抜きながら左右田くんの顔を見上げてみたら、左右田くんは何だか困ったような顔で頬を赤くさせていた。
「わ、悪い」
「…どうしたの?」
「…何でもねーよ」
左右田くんはちょっとうつむいて、腕についた砂を払って、帽子を引っ張って深く被った。
「砂遊びももう満足しただろ?帰ろうぜ」
「うん…」
驚かせたかっただけなのに、左右田くんびっくりしすぎて怒ったのかな?左右田くんが気の小さい人だということを忘れていた。
「今日の夕飯何だろうなー」
「…オムライス食べたいな」
その割りにはすぐにいつも通りの左右田くんに戻っていて、ちょっとだけ左右田くんのことが解らなくなった。
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