何でもないわけがない
夕飯の時に左右田くんに話を聞こうと思っていたのに、やっぱりまだ不機嫌そうな顔でいたから、声をかけ辛かった。
そしてそのまま翌日になってしまい、日向くんが気を使ったのか何なのか、採集が左右田くんと私で公園にあてられた。
「…」
「……」
変な態度をとったのは左右田くんの方なのに、なんでこんな微妙な雰囲気にされるのか。
「…遠野」
困っていたら、ぼそっと名前を呼ばれたので左右田くんの方に顔を向けた。左右田くんは私に背を向けたままだった。
「昨日、悪かった。ごめん」
日向くんの計らいは正しかったようだ。左右田くんは謝りたかったからずっと気まずい空気を纏っていたのか。
「いいよ、別に怒ってないし」
「…狛枝のヤローに喧嘩売られてイライラしてたんだ」
「…何があったか聞いてもいい?」
「……」
左右田くんから返事は無かった。聞かれたくないことなのか。だからそれに触れた狛枝くんに対してイライラしてたのかな。
「…何でもねーよ」
聞かれたくないのは理解できるんだけど、ちょっとだけ寂しいなぁとか思ったり。こういうとき、日向くんだったら上手いこと言えるんだろうけど、私はどうしていいか解らない。
「それより、今日の自由時間空いてるか?俺暇なんだけど……って、おい、どうした?」
ちょっと落ち込んでいたら左右田くんはいつのまにか顔をこっちに向けていて、私の元気の無い顔を見られてしまった。
「…何でもないもん」
「何すねてんだよ…。や、やっぱ、まだ昨日困らせたこと怒ってるんじゃ、」
「怒ってないし謝ってくれたから気にしてない」
「じゃあ何だよ」
何でもねーって言われて寂しく思って、左右田くんに余計な気をつかわせてしまう自分にイライラしてるだけだよ。
「何でもないって言ってるでしょ。私も暇だから、今日遊ぼ」
「…そうかよ、わかった」
仕返しみたいに私も本音を隠してみたけど、左右田くんは少し不満そうな返事だった。別に喧嘩がしたいわけじゃないけど、ちょっとだけ、八つ当たり。
「映画観たい」
「何かいいのやってたっけ?」
「最近作品全部入れ換えたみたいだから、とりあえず何に変わったのか確認しておきたい」
「おっけー」
「…ポップコーン、キャラメルがいい」
「あ?おう、別にいいけど」
「…観る作品も、私が決めたい」
「いいけど」
「席、後ろの方がいい」
「いいぞ」
「…」
八つ当たりしたくて、わがままを言ってみたつもりなのに、どれもオーケーされてしまった。
「どうかしたかよ。つーか、映画すげぇ楽しみにしてたんだな」
「…うん」
わがままのつもりが、ただはしゃいで注文を多くつけているだけみたいになってしまった。私には、仕返しだとか悪いことを進んでやるようなことはできないみたいだ。
「よし、じゃあ採集がんばるか!」
困らせるはずが左右田くんは逆に元気になってしまって、ちょっと悔しい。
「私左右田くんより多く集めるから」
「なんだよ、勝負か?やってやろうじゃん」
悔しくて、とにかく何でもいいから左右田くんを負かしてみたくて、いつになく本気で作業に取りかかった。
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