私のために喧嘩しないで



「おかえり、遠野さん」

すごく感動的な映画を左右田くんと見て、泣いて、映画の内容について語りながら早めにレストランに着くと、そこで待ち伏せていたのは狛枝くんだった。

「あ、左右田くんも、居たんだ」
「居ちゃ悪いかよ!」

またなんだか喧嘩ムードだし、他に人が居ないから止めるなら私にしか止められない。

「二人で楽しかったみたいだね。どこ行ってたの?」
「ふんっ」
「…映画館だよ」

なんとか笑顔を保って答えてあげた。そんな険悪なムード出されたら私ここにいたくないんだけど。

「いいなぁ。遠野さん、今度僕とも映画観に行こうよ。今度こそ、ホラーじゃなくて君の好みの映画を観ようよ」
「オメーに遠野の好みなんかわかんねーだろ」
「うん。でも、解らないからこそ知りたいんだ。興味があるんだよ、遠野さんに」

私に興味があるなんて、なんだか恥ずかしい言われようだなぁ。今が普通の場面だったら素直に喜べそうなのに。

「明日は誰かとの予定入ってる?もし無かったら、明日僕とデートしてほしいな」
「明日は…」
「明日も俺と遊ぶからオメーの出る幕はねぇよ」
「僕は左右田くんじゃなくて遠野さんに聞いてるんだよ。昨日だってそれ、左右田くんの嘘だったでしょ?」
「だったら何だよ」
「どうして僕の邪魔するの?」

左右田くんが狛枝くんを全力で邪魔する理由は、私にもいまいち解らない。そりゃあ初めて狛枝くんからデートとか言われたときは邪魔してくれて助かったけど、昨日も今日も、私のためとかでなく、ただの、左右田くんの意地のようなものを感じる。

「オメーが気にくわねぇからだっつーの」
「それだけ?その程度で僕らの邪魔をするの?それってすごく幼稚だよ」
「あ"ぁ?」

喧嘩しないで、と言いたいところだが、怒っている左右田くんはちょっと怖い。特に、顔が。その刺さりそうな目付きだけでもどうにかしてほしい。

「僕は遠野さんが好きなんだ。だから、邪魔しないでくれるかな」
「てめぇ、」
「えっ」

待って狛枝くん、今すごいこと、さらっと言わなかった?え、聞き間違いじゃないよね?好き?

「もしかして左右田くん、そこまでして邪魔するってことは、遠野さんのこと好きだったりするのかな」
「すっ…、んなわけねぇだろ!!…って、あの、そ、そういう意味じゃねーぞ?嫌ってるわけじゃねーからな?」
「解ってるよ…好きなのはソニアちゃんでしょ」

狛枝くんとの喧嘩途中で、突然弱気になって焦る左右田くんのおかげで、緊張感は薄れた。

「あっははは!だったら、黙っててよ。今は、僕が好きな遠野さんをデートに誘う時間なんだ。ソニアさんのことが好きな左右田くんには、関係無い話だよね」
「っ…」

確かにそうかもしれないけど、狛枝くんの言い方がちょっと気にくわない。いや、かなり、気にくわない。

「ねぇ遠野さん、改めて聞くよ。明日、僕とデートしてくれない?」
「…やだ」
「え…?」
「悪いけど…狛枝くんとは、デートしたくない。例え一緒に出掛けたとしても、デートだなんて言いたくない」
「…嫌われちゃったかな?」

狛枝くんは優しくない。それが充分解ったから、デートなんて絶対したくない。好きだという気持ちが本物だったとしても、私はそれを、受け入れられない。

「はっ、バーカ。残念だったな」
「左右田くんもそういう言い方しないの」
「…」

せっかく良い映画を見て感動して楽しかったのに、すべてを台無しにされた気分だ。狛枝くんの顔は今は見たくないし、左右田くんとも、今だけは、隣に居たくない。夕飯の時間まで部屋にこもろうと思って階段に向かったら、階段の途中で止まっている花村くんがいた。

「…や、やぁ。と、取り込み中かな?」
「…夕飯作りに来たんだよね?」
「うん…」
「…ごめんね。私にも手伝えることあるかな?」
「そりゃああるけど、」
「じゃあやらせて」

気分転換も良いかなと思い、いつもみたいに笑ってみせれば、花村くんは階段を上ってきた。

「いやー、遠野さんにヤらせてなんて言われると興奮しちゃうよ」
「私お米炊くね」
「スルー!?」

狛枝くんと左右田くんが気まずそうにしているのは、知らないふりをしておこう。

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