私の好きなひと?



「実際、和一ちゃんと凪斗ちゃん、どっちなんすか?」
「なにが?」

唯吹ちゃんにギターの弾き方を教えてもらうべく、唯吹ちゃんのコテージに遊びに来ていた。そしたらそんなことを聞かれて、頭にはハテナが浮かんだ。

「どっちが好きなんすか?ってことっすよ!唯吹、あんなに熱い凪斗ちゃん他で見ないんで、ずっと気になってたっす!」
「…これ恋バナ?」
「そーーっす!!」

私の恋愛感情は死んでいるのかと思うくらい、この手の話に頭が回らない。恋バナだと気付けただけでも評価してもらいたい。

「恋なんかしてないよ」
「してない!?ほんとっすか!?え、あんなに凪斗ちゃんが積極的なのに、少しも心が揺らぐこともないんすか…!?」
「なんでそんな狛枝くん推しなの…」
「あんなに堂々とみんなの前でデートとか言っちゃってたから、あれからデートしてるんじゃないかと思ったっす」
「…残念だけど狛枝くんとはデートも何もしてないよ」
「えーーーっ、残念無念っす」

ほらこうやって勘違いされるし周りに詮索されるでしょ、だから嫌なんだよ。

「和一ちゃんとはどうなんすか?」
「仲良いよ」
「…それだけ?」
「それだけだよ」
「ただのお友だちなんすか!?」
「んー、仲の良いお友だちだよ」

唯吹ちゃんの望む答えが出せないからか、唯吹ちゃんは不満そうだ。

「でもでもー、知ってるっすか?和一ちゃん、前ほどソニアちゃんにしつこくなくなったんすよ」
「へぇ、そうなんだ」
「空ちゃんと仲良くなったからっすかね?」
「そうなの?」
「唯吹はそうだと思うっす!」

左右田くんはそれでいいのかな?ソニアちゃんは、乗り気じゃ無かったからそれでもよさそうだけど。

「ついでに言うと、和一ちゃん、最近空ちゃんのことすっごい気にしてるっぽいんすよね!」
「そうなの?」
「そーっす!だって、凪斗ちゃんが空ちゃんのことデートに誘うたび和一ちゃんが邪魔に入るするんすよ?嘘ついてまで!これはもう、和一ちゃんの気が空ちゃんに移ったとしか考えられないっす!」

狛枝くんと同じこと言ってる。でも左右田くん、違うって言ったし、好きなのはソニアちゃんなんでしょ?

「唯吹の推理では、凪斗ちゃんも和一ちゃんも、空ちゃんのことがすごく好きなんだと思うっす!」
「…はいはい」
「き、聞き流さないでほしいっすよぉ!」

時計を見たら、もうすぐ夕飯の時間だった。

「そろそろギター片付けてレストラン行こうか」
「空ちゃんは正直なところどっちの方が好みなんすか?」
「顔?」
「空ちゃんが男を顔で判断するなら、顔の好みを教えて欲しいっす」
「や、別に顔だけで判断したりはしないけど…」

喋りながらギターをケースの中に入れて片付けた。いつまで恋バナが続くんだ。

「顔だけで言えば狛枝くんだけど、顔以外で言えば左右田くんだよ」
「顔以外!?かっ…体っすか!?」
「性格だよ!!!」

唯吹ちゃんが顔を赤らめて驚くから、私もつられて顔が熱くなった。体なんか見たこと無いし判断できるわけがない。なんとなくの体型とかなら解るけど。

「もー、びっくりするじゃないっすかぁ」
「こっちがびっくりだよ…」
「でも性格が好きなら、例えばもし和一ちゃんが空ちゃんのこと好きだって言ったらゴールインっすか?」
「友達として好きだけどそういう目で見てない」
「えーっ、でも唯吹、空ちゃんと和一ちゃんお似合いだと思うっすよ?」
「さっきまで狛枝くん推してたくせに…」
「それはそれ!これはこれっす!」

そろそろレストランに行こうと思って外に出たら、ちょうど左右田くんもコテージから出てきて、ばったり出会ってしまった。

「ややっ、噂をすれば和一ちゃん!今日は一人だったんすか?」
「あ?まぁな。つーか、噂って何だよ。まさか悪口じゃねぇだろーな?わ、悪口だったら泣くぞ?」
「や、やだなぁ、唯吹たちが和一ちゃんの悪口なんか言うわけないっすよ!ねー空ちゃん!」
「うん…」
「おいおい、逆に怪しいぞ?まじで悪口か?」

唯吹ちゃんの下手なごまかしかたのせいで、左右田くんに誤解を与えていそうだった。

「唯吹は和一ちゃんの悪口を言うような小さい女じゃないっす!」
「じゃあ遠野が…」
「え?いや、言ってないよ?」

気の小さい左右田くんはショックを受けたようだった。

「えっと…唯吹、余計なこと言いそうなので、和一ちゃんは空ちゃんに任せるっす!お先っす!」

唯吹ちゃんは慌ててレストランへと駆け出した。変に誤解した左右田くんと二人きりにされても困るんだけど。だからと言って、恋バナをしていたなんて言えばそれもまた誤解を生みそうだ。
どうするべきか考えているうちに、落ち込んだ左右田くんはとぼとぼとレストランへ向かって歩き出した。

「あ、ちょっと!和一ちゃん!」
「…は?」

呼び止めてからハッとした。私今、呼び方間違えたよね。怪訝そうに振り返る左右田くんと目が合って、顔が一気に熱くなった。

「今のは違う!唯吹ちゃんのがうつっただけだから!!」
「うつるほど俺の話してたのかよ…?」
「そ、そういうわけでは、ないけど…」

ああもう、何を言っても失敗だ。唯吹ちゃんのばか。

「ま、いーけど。言いたくねーならもう聞かねーよ」

そう言ってくれるのはありがたいけど、左右田くんってば確実に拗ねているし、落ち込んでいる。

「…落ち込まないでよ。…話せばいいの?」
「おう」
「…唯吹ちゃんに、好きな人聞かれてたの」
「いるのか!?」
「い、いないけど。でも、最近左右田くんと仲良いから、和一ちゃんっすか?って何回も聞かれて…それで…、…それだけだよ」

左右田くんが落ち込んでいるのが嫌で話したけど、これはこれで気まずさが残るなぁ。

「だから言いたくなかったの。ごめんね、先行く」

これ以上何を言っていいのか解らなくなったから、左右田くんを置いてダッシュでレストランまで行った。先にレストランに着いて落ち着かない様子で待っていた唯吹ちゃんのことは、とりあえず叱っておいた。

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