避けられているような



「左右田くん」
「うわぁっ!!な…なんだよ、遠野か。驚かせんなよ」
「普通に声かけたつもりなんだけど…」

最近ちょっと、左右田くんの様子がおかしい。話しかけるとびっくりされるし、なんとなく挙動不審なようにも見える。でも話し始めればいつもと変わらない普通の左右田くんになるし、おかしいのは勘違いだったのかな?とも思えてしまう。
でも一つだけ変わったことは確実にあって、左右田くんから話しかけてきてくれることが減ったことだ。そりゃあ毎日全員と会話をしているという訳ではないけど、左右田くんとはそこそこ仲が良いと思っていたから、寂しい。私から声をかければ話してくれるし、お出掛けに誘えば付き合ってくれるけど、ここ数日、私からしか動いていなかった。

「今日あいてる?」

誘って欲しいわけじゃないけど、遊べないのも寂しいから自分からお出掛けに誘うしかなかった。

「あー…悪い。今日日向と出掛ける予定なんだよ」
「…そっか、残念。じゃあまた今度遊んでね」
「おう」

日向くんと約束があるならしょうがない。それは解っているけど、寂しかった。この前遊んだときも時折左右田くんは上の空だったし、私と遊ぶの飽きちゃったかな、なんて不安にもなる。私も左右田くんに負けないくらい小心者のびびりだから、勝手にへこんで勝手に落ち込んでしまう。


「遠野おねぇー、左右田おにぃなんかと遊んでないであたしと遊ぼ?」

袖を引かれて振り向けば、日寄子ちゃんがおでかけチケットを押し付けてきた。

「遊園地行こ!」
「い、いいけど、」
「早く早く!」

日寄子ちゃんは私の手を握って、レストランの外へと連れ出した。


「遠野おねぇも大変だね〜狛枝おにぃとか左右田おにぃみたいなのに好かれて」
「え、好かれてるの?」
「どーみてもそうでしょ?狛枝おにぃなんかこの前、あたしのことおでかけに誘ってきたと思ったら遠野おねぇのことばっか聞いてくんの。キモかったから何も教えてやらなかったけどね」

この前、ってのがいつなのかは解らないけど、最近かな?だとしたら狛枝くん、まだ私のこと好きなの?どうしよう、困ったな。

「左右田おにぃだって最近ずっと遠野おねぇのことばっか見てるしさ!見てるだけで何もしないとかほんっと童貞だよね!遠野おねぇも迷惑ならおでかけなんか誘っちゃだめだよ」
「…いや、別に、迷惑ではないけど…」
「左右田おにぃに好かれて迷惑じゃないの?」
「好かれてないと思うし…、その、最近、ちょっと?冷たいような気もするし…」
「童貞のくせに遠野おねぇに冷たくするとかありえないんだけど!?やめた方がいいよそんなやつ」

やめるも何も左右田くんとはただのお友だちだ。私にそんな気はない。

「遠野おねぇ優しいからどうしようもない童貞が寄ってくるんだよ」
「うん、あの、暴言はやめようか」
「だってほんとのことでしょー」

ほんとかどうかなんて知らないよ。

「遠野おねぇもしかして、左右田おにぃに冷たくされてへこんでるんだ?」

日寄子ちゃんは意地悪そうににやにや笑ってそんなことを言ってきた。事実だから否定できなくて、ため息が漏れた。

「冷たくされたっていうか…最近、あんまり構ってくれないってだけなんだけどね」
「ふーん。じゃあ遠野おねぇも仕返しに、構うのやめたら?他の人と遊べばいいじゃん」
「そうだけど、」
「ゲロブタ女も遠野おねぇのこと見つめて寂しがってたよ」

そういえば蜜柑ちゃん、しばらく私のことをおでかけに誘ってくれていない。狛枝くんと左右田くんのアレのせいで、何か遠慮しているのだろうか。

「明日蜜柑ちゃんと遊ぼ…」
「それでいいんだよ。遠野おねぇと遊びたい奴はいっぱいいるんだからさ」
「日寄子ちゃんとか?」
「そっ……、そうだけど?」

核心を突いたようで、日寄子ちゃんは照れくさそうにそう答えてくれた。なんだか嬉しくて、笑みがこぼれた。

「遠野おねぇはそうやって笑っててくれないとね」 

日寄子ちゃんはこれでも私が元気が無いのを心配してくれていたのだろうか。申し訳なくて、でもありがたくて、嬉しくて、日寄子ちゃんの手を握る手に、力を込めた。

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