背中を押して



「か、和一ちゃんにコクられたんすか…!?」

どうやって仲直りしたのか聞かれたから、結論だけ述べたら驚かれた。左右田くんのトラウマのことは、勝手に人に話すわけにはいかなかったし。

「それでそれで、返事は何てしたんすか??」
「…返事とかすることもなく、左右田くん、私にその気が無いの解ってたみたいだから、仲直りしようってことでそのまま今日に」
「和一ちゃんそれでも男っすか!?押しが弱いっす!だから空ちゃんのハートを掴めないんすよ!」

それを私に言われても困るなぁ。

「でも好きだって言われたんすよね?そのとき空ちゃん何とも思わなかったんすか?」
「…嬉しかったよ」
「じゃあお付き合いすればいいっす!晴れてラブラブカップル誕生っすよ!?」
「だって左右田くんそこまでのこと求めてこなかったし…」
「あの小心者の和一ちゃんが、そこまでのことを言えるわけないっすよ!ていうか、好きだって言っただけで気力を使いきっちゃったんじゃないっすかね?告白できただけでも和一ちゃんにとっては大事件だったんすよ」

たしかに、ソニアちゃんにすらおでかけに誘うだけで精一杯っぽかったし、あの様子じゃ告白なんてしていないだろう。それでも私には、きちんと向き合って、全部話して、好きだと言ってくれたんだ。

「それでも空ちゃんは、和一ちゃんとお友だちのままがいいんすか?全くその気が無いなら唯吹はもう何も言わないっすけど、和一ちゃんが本気出したんすから、空ちゃんも本音があるならぶつかっていくべきっす!」

私は自分の本音が解らない。左右田くんのことはいいお友だちだと思っていたし、いい人だと思っていた。ただその程度の感情で、左右田くんの想いに応えるなんて重大なこと、できる気がしない。きっと私が手を伸ばせば、私たちの関係が変化する。私はそれが、少し怖い。

「唯吹、前も言ったっす。空ちゃんと和一ちゃんはお似合いだって。ラブラブカップルになってもきっと和一ちゃんはいつも通り遊んでくれるし、そこにちょーっとだけラブラブ要素が加わるだけっすよ?和一ちゃんとそういうことしたくないっすか?」

唯吹ちゃんは私に詰め寄ってきて、私のあごを掬った。

「和一ちゃんだって男子なんすよ?こんな可愛くて大好きな空ちゃんとただのお友だちで止まらなきゃいけないなんて気の毒っす。唯吹は女子でよかったっす!」

にっこりと笑ってからぎゅううと私を抱き締めてきた。たしかに唯吹ちゃんは女の子だから、好きだからってこんな風にじゃれることはできる。でも左右田くんは男の子だから、友達のままでは二度とこんな風に抱き締めることもできないんだろう。

「…私も、女子でよかった」

唯吹ちゃんの細い体を抱き締める。左右田くんとは体つきが全然違って、昨日のとつい比べてしまう。

「唯吹と空ちゃんは女子なので、深く考えずにずーっとお友だちでいられるっす」

左右田くんは男の子だから、どんなに仲が良くても一定の距離を保たないと、友達で止まってなんていられなくなる。私だって左右田くんともっと仲良くしたいのに、そんな面倒なことを考えなきゃならないのももどかしい。

「…左右田くんともこういうことしたいって思うのは、恋なのかな」
「空ちゃんがそう思うならそうっすよ」
「…今からでも、遅くないかな?」
「遅いって和一ちゃんなら言いそうっすけど、きっと許してくれるっす」
「…なんでそう思うの?」
「だって、唯吹の好きな空ちゃんが好きな相手っすから!ひどいこと言うわけないっすよ!」

全然根拠は無いけれど、自信満々で言ってくれるから心強かった。

「私も、唯吹ちゃんのこと好きだよ」
「はわわっ!て、照れるっす!そんなド直球で言われたら和一ちゃんもイチコロっす!」

ごめんね左右田くん。もう親友だと思ってくれてるかもしれないけど、私もそれを、裏切ることになる。

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