精一杯の返事



「遠野、今日遊びに行こうぜ」

左右田くんをどう誘おうか迷っていたら、向こうから声をかけてくれた。

「いいよ」

一度好きだと言われたはずなのに、左右田くんがあまりにもいつも通りすぎて不安になる。私を好きでいることをもうやめてしまって、左右田くんの中で一区切りついてしまっていたら、私にはもう為す術が無い。

どこへ行くかも迷いそうだったから、左右田くんが落ち着けて、邪魔が入りそうにない場所を、と考えたら思い付くのは軍事施設だったので、そこへ行こうと提案した。左右田くんがそれを拒むわけもなく、行き先はすぐに定まった。


「ここでの生活もわけわかんねーけど、楽しかったよな」
「そうだね。…もうすぐ終わっちゃうの、ちょっと寂しいね」
「あぁ…」

ウサミ先生の話によれば、このあと私たちの学園生活がやっと始まる。これからもっと楽しくなるはずなのに、今のみんなと仲良く暮らすだけの日々が楽しすぎたせいで、まだ終わりたくないなんて思ってしまう。

「…私、左右田くんと仲良くなれてよかった」
「そ、そうかよ?照れるだろーが」

左右田くんはいつも通り、いじれそうな機材が無いか探しながら私の言葉に返事をする。この場所を選んだのは私のくせに、もう少しこっちを見てほしいなんて理不尽なことを思う。

「…左右田くんに一つ、謝らなきゃいけないことがあるの」
「……なんだよ?」

そこでやっと、左右田くんの手がとまる。ごめんね、脅えさせたいわけじゃないの。だから怖がらないで。

「親友になろうって話だったけど……あれから、色々考えてたら、左右田くんと親友になるの嫌だなぁって思って…ごめん」
「……」
「…左右田くんのこともっと好きになって、付き合うようになったりしたら、もっと楽しいのかなって…思っちゃったりして…」
「…へ?」

いつまでも振り向かない左右田くんの背後から、そっと近寄って抱き付いた。この前は左右田くんが勇気を出してくれたんだから、今度は私が頑張る番だ。

「左右田くんさえよければ…私はもっと、左右田くんと仲良くしたい」
「…そ、それって、」
「たぶん、好きなんだと思う」

言葉にしたら途端に恥ずかしくなってきて、顔がめちゃくちゃ熱くなる。

「だ、だったら、もっと早く言えっつーの…!」
「だって……左右田くん、私に意見させてくれないし、考える時間もくれずに、今まで通りにしようとか言うから…」
「それは、遠野が俺のこと親友だと思ってたって先に言いやがったから……それなら、遠野の望む通り、俺もそう思った方がいいのかと思って…」

左右田くんは馬鹿だ。そうやって相手のことばっかり考えて、そのために自分の気持ちまで抑え込んでしまう。そのせいで、私が隠し持っていた感情まで、殺しそうになってしまうんだから。

「私、まだ自分の感情が整理できてないから、面と向かって、はっきり好きだなんて言えないけど……でも、左右田くん次第では、もっともっと好きになれると思うので、その……惚れさせてほしいな」

左右田くんがまだ私のことを好きだと言ってくれるなら、私はそれに応えたい。左右田くんのためなんかでなく、自分のために。自分が、もっと楽しく、幸せになるために。

「遠野…ちょっと離せ」

めちゃくちゃなことを言ったから混乱させてしまっただろうか。不安に思いながら左右田くんに回していた腕の力を抜くと、左右田くんは振り返った。その顔はやっぱり困っているように見えたけど、頬は真っ赤に染まっていた。

「俺は、まだ遠野のことを好きでいてもいいってことだよな?」

うなづいて見せれば、左右田くんは私を力強く抱き締めた。それを嬉しく思えるのも、やっぱり私が左右田くんを、好きだからなのだと思う。

「好きだ」
「あ…ありがと、」
「すっげぇ好き。こんな俺のこと、少しでも好きだとか思ってくれてサンキューな」
「う、うん」

左右田くんの嬉しそうな声でなんだか私も嬉しくなって、左右田くんの体に腕を回した。

「この修学旅行が終わっても…遠野のこと離すつもりないからな」
「…嬉しい」

このままずっとこうしていたいだなんて、そう思ってしまうくらいには、左右田くんからの愛情が、心地よかった。

- 23 -

←前次→