メカニックの好きな人



「くっそー…田中め…」

昼食のあと、食器の片付けをしていたらレストランに左右田くんが戻ってきた。

「あれ、左右田くん。どうしたの?」
「ソニアさん誘おうと思ったのに、田中に先越されちまっててよぉ」

最近、左右田くんはソニアちゃんに熱い視線を送っていた。どうやら私の気のせいってことでもなく、デートにも誘っているし、好きなようだ。

「遠野こそ何してんだ?」
「食器の片付け。いつも花村くんに任せちゃってて悪いから、今日だけでも代わってあげることにしたの」
「はー、真面目だな。大変じゃねぇの?」
「働くのはほとんど私じゃなくて食器洗い機だから、大丈夫だよ」

とは言っても、お皿の枚数が多いから全て終わるには時間がかかるけど。

「なんか手伝うことあるか?」
「んー…大丈夫。もうすぐ終わるし」
「そうか」

左右田くんのことは気にせず、黙々と食器を拭いて棚に戻す作業に取りかかった。すぐ終わると言ってもそこそこ時間かかるし、その内に左右田くんもどこかへ行くと思ったからだ。
しかし全てを片付け終えてキッチンから出ると、そこにはまだ左右田くんがいて、退屈そうに座っていた。

「おせーよ」
「え、ごめん。え?」
「時間かかるなら手伝わせろよ。俺はなぁ、暇なんだぞ」

偉そうに言うことじゃないだろう、というつっこみは押し込めた。

「ほら、行くぞ。暇だろ?」

左右田くんは立ち上がり、私におでかけチケットを差し出した。ソニアちゃんに振られて暇だからといって、私が誘ってもらえるとは。

「行きたいとこあるか?」

男子からはまだ花村くんからしか誘われたことがなかったから、嬉しかった。

「じゃあ、図書か…」

いや、待てよ。この左右田くんを図書館へ連れていって、楽しんで貰えるのか?本や勉強には縁が無さそうな顔…というか、見た目をしているのに。

「よし、図書館な。行くか」
「へ」

別に嫌そうにすることもなく、あっさりと受け入れられてしまった。左右田くんでも、本とか読むのかな。

「遊園地とか言われたらどうしようかと思ったぜ」
「遊園地嫌いなの?」
「乗り物酔いがひでぇんだ」

そうなるとアトラクションはほとんどダメだし、ウォークスルーのお化け屋敷は私がダメだし。私らのおでかけに遊園地は不向きだ。

「遊園地行きたかったら俺とじゃないときに行けよ」
「お化け屋敷連れてかれたら困るし、遊園地に行きたくなることはまず無い、かな」
「そういやこの前、狛枝にホラー映画見せられて青くなってたな」
「見せられたっていうか、ホラー映画に決まったのは偶然なんだけどね…」

左右田くんもホラーが苦手だという話をしながら、図書館へとたどり着いた。修学旅行中だからか、わざわざ図書館に来ているような人は誰も居なかった。

「何か読みたい本でもあんのか?」
「うん、ちょっとね」

きょろきょろと見回すが、それなりに本が多くてどこを探すべきか迷ってしまう。

「お菓子の本とかあったら、女の子誘って一緒に作ろうかなーって思ってて」
「女子はそういうの好きそうだよな。俺も探してやるよ」
「えっ、あ、ありがとう」

嬉しいことに、左右田くんも探してくれることになった。手分けしてレシピ本を探し回っていたら、目当てのものを発見することができた。

「左右田くん、あったよー」
「お、よかったな」

左右田くんの声がした方を見てみたらとある棚で立ち止まって何かの本を手にとっていた。棚の上には工学という表記があり、あぁやっぱり、という感じだった。邪魔しちゃ悪いと思い、どの本が解りやすいかを中身を見ながら順番に確かめることにした。


「あ、それうまそう」

背後から、しかもすごく近くから声がして、びっくりして本を閉じてしまった。振り向くと、後ろから私の本を覗きこんでいたらしい左右田くんの顔がすぐそこにあった。近い。

「閉じるなよ」
「だって、びっくりしたから…。今何のページ開いてたっけ」

探そうと思って本をぱらぱら捲ったのだが、途中で左右田くんに本を奪われた。左右田くんは目次を見て、さっき開いていたらしいページを私に向けて見せてきた。

「これがいい」
「…チーズケーキ?」
「そう」

左右田くんはこういうのが好きなのか。たしかに、美味しそう。

「…まさか、女子だけでこそこそ作って女子だけで完食するつもりだったとか言わねーよな!?」
「えっ、そんなつもりは、ていうか、まだみんなで作るかどうかの計画も話してないくらいだし、」
「別に他の奴にもあげるかどうかはどーでもいいってかあげなくてもいいと俺は思うけど、俺はとにかくこれが食いたい」
「…わかった。とりあえず、チーズケーキを作る方向で考えておきます…」
「よっしゃ!」

女の子たちが集まってくれると嬉しいけど、大丈夫かな。

「もちろん、ソニアさんも参加するよな?」
「女の子みんな、誘うつもりだよ」
「よし、ソニアさんの手作りのお菓子…!」

やたらとテンションが高いと思ったらそういうことか。なかなかに解りやすい人だ。

「絶対よこせよ!」
「はーい」

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