もとどおり


僕は誰にも告げること無く更に1週間も欠席してしまった。元通りにしてもらうために、それは必要な時間だった。
1週間を犠牲にした結果、僕はまた授業に出られて、体術の特訓もできたし、刀だってまともに振れるようになった。それが嬉しくて、以前のようにバカみたいに笑える日々を取り戻せた。授業に追い付くのは、ちょっと大変だったけど。それに京楽おじさんにも心配かけて、捜索される大事になってしまっていたらしい。それは十二番隊の人が説明をしてなんとかなった。
それから僕は、修兵に会いに行くことにした。昼休みに走り回って探せば、中庭で一人でおにぎりを食べる修兵がいた。こっそり後ろから近付いて、修兵の両目を手で覆い隠した。

「だーれだ?」
「は…?」
「修兵ってばやっぱりお昼御飯一緒に食べる友達いないんじゃん、寂しいねぇ?」

話しかけても修兵は返事をしてくれなかった。あれから2週間以上経ってるし、一回も遊んであげられなかったから怒ってるのかな。

「この左腕…どうしたんすか」
「義手作ってもらったの。意外に時間かかっちゃってさ、それで遅くなっちゃった、ごめんね?怒ってる?」

修兵は手探りで僕の左手を触り、感触を確かめていた。涅隊長が特別に作ってくれたものなのだから、触ったくらいじゃ本物との違いなんか解らないはずだ。
得意げに思っていたら、なんだか手のひらが濡れてきた。僕の左手に水を出すような変な機能はついてないし、それに両手とも濡れていた。

「…修兵?」
「ごめん、俺のせいで……先輩が、死神になるの諦めるんじゃないかって思ってて…」
「…諦めたくないから、義手作って戻ってきたじゃん。授業おいてかれちゃったけど、それでもまだ頑張って死神になるって決めたから。全然修兵のせいだなんて思ってないし…」

泣き顔なんか見られたくないだろうとは思ったけど、このまま顔を見ないで話すのはつらいという僕の自分勝手で、修兵の目から手をどかし、修兵の前に回り込んだ。

「僕は強いから平気だよ。それに虚倒せたのだって、修兵がいてくれたからだよ?僕一人じゃあんなの相手にできなかったし」
「……」
「…だから、泣くな修兵。男だろ」

泣き止んで欲しくて修兵の頭を撫でてみるけど、泣かせてしまった罪悪感やら何やらで、僕までもらい泣きしてしまった。

「先輩こそ、先輩のくせに泣くなよ…」
「う、うるさい。修兵だって、年上のくせにびーびー泣くな」
「そんなだせぇ泣き声あげてねぇし」
「泣き顔がそのくらいださいし」
「先輩こそ」
「僕の泣き顔は修兵と違ってかわいいからいいんだよ」
「…ほんとだな、女みてぇ」
「し、失礼な」

ばれたらやばいと思って、豪快に目元を擦って涙を全て拭いとる。泣くなんて女々しいから人前で泣くのはよそう。

「修兵、心配してくれてありがとね」
「…心配なんかしてねぇよ」
「僕の学年の棟まで見に来てたって友達に聞いた」
「……」
「心配してないってことは、友達がいなくて暇だったから見に来ただけかな?今だって一人でご飯食べてたし?」

煽ってみれば、修兵は苛立ちを顔に露にした。

「もう先輩のことなんか心配してやらねぇ」
「あ、やっぱ心配してくれてたんだ?嬉しいな。それより僕お腹空いちゃったからおにぎり1つくれない?お昼用意するの忘れちゃった」
「知るか。それよりって何だよ。俺が心配してやったことより昼飯が大事かよ」
「今はね、お腹空いたしね」

修兵は怒ったように眉間にシワをよせておにぎりを貪り始めた。

「待ってよ、僕のおにぎり!」
「俺のだよ!」
「先輩には敬語を使え!」
「クソガキを敬う理由はねぇ!」
「またクソガキって言ったな!もう修兵のことかわいがってあげない!ご飯も一緒に食べてあげないし勉強も教えてあげない!」

いつもならここで修兵が折れてくれるのに、修兵は戸惑いながらもなぜか強気に出てきた。

「じょ、上等じゃねーか。先輩無しでも一人でやってやるよ」
「かっ……かわいくない!むかつく!」
「俺にかわいさ求める方が間違ってんだろ」
「もういいよバカ!修兵バカだからやっぱ僕が勉強教えるしかないね!?そうだよね!?ご飯だって一緒に食べてやるし修兵に拒否権なんかないからな!バーカ!バーカ!」

おにぎりもくれないし修兵バカだしかわいくないから、怒ってからご飯を求めに食堂へ走った。早くしないとお昼休みが終わっちゃうし、急がないと。
修兵に勉強教えてあげなきゃいけないし、僕も早く自分の授業についていけるくらいの学力を取り戻して、恥ずかしくない先輩にならないと。

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