いちまる


霊術院に通って六年。入隊試験を受けるまでもなく、護廷十三隊への内定は決まっており、配属先も決まっていた。

「今日から五番隊で務めさせていただきます、御門鈴です!よろしくお願いします!」
「僕は隊長の藍染…」
「惣右介でしょ知ってるよー!久しぶり!会いたかったー!」

あの日知り合った人の隊に就けるなんて思っていなかったから嬉しくて、自己紹介中に舞い上がって惣右介に抱き付いた。

「久しぶり、よくここまで頑張ったね」
「うん!だってまたみんなに会いたかったんだもん!それに更木隊長に大口叩いちゃったからね!」
「また会えて嬉しいよ」
「僕も嬉しいよ!」

惣右介の胸板は厚くてすごく筋肉質で、ってなんだかこれじゃあ変態みたいだ。でも僕を抱き締めてくれる腕とかも力強くて、隊長格は体の作りが違うんだとしみじみ思う。それに比べて僕はまだ成長期にすら入っていないから身長すら無いってのに。

「それにしても驚いたよ、入隊した途端に性別が女になるんだから」
「えっ、そうなの?」
「何かの間違いかと思って京楽隊長に確認したけど、女の子で間違いないらしいね」
「……うん、女の子だけど。そっか、じゃあ僕もう男の子のふりしなくていいんだ?」

そういえば京楽おじさんとの約束は、死神になるまで女だということがバレないことだった。死神になったからもう隠す必要が無くなったということか。

「そもそもどうして性別を偽っていたんだい?」
「おじさんが、僕みたいなガキんちょが一人で学校通うの不安だって言うから。男の子として生活してれば安心できるみたいだったから」
「あー……あの人らしいね」

でも今まで男だったのに急に女になったりしたら、みんな不思議に思わないかな。同期の人たちだっていっぱい死神になってるわけだし、僕が女の子してたらびっくりしちゃうよね。

「これからは女の子として生きるのかい?」
「…べつに、今まで通り僕は僕だよ。性別なんか僕の知ったこっちゃないもん」
「君がそう考えていても、成長期が来たらそんなことは言ってられないかもね」
「僕は成長したら高身長のかっこいい死神になるもん」
「そうだといいね」

そうはなれないだろうとでも言いたげな惣右介の口振りに少し腹が立つ。今日から毎日牛乳飲んで背伸ばそ。

「そういえば僕何も考えずに惣右介とか呼んでたけど、死神になったからにはそんな呼び方ダメだよね」
「…そうだね、せめて人前では直して貰おうか」
「じゃあ惣右介と二人のときは惣右介って呼んでもいいんだね!」
「藍染隊長、そんな若い子つかまえて何してはるんです?」

知らない声が聞こえてきてちょっとびっくりする。藍染隊長から離れて声のした方を見てみると、銀髪のひょろいお兄さんが立っていた。

「盗み聞きに覗き見かい?」
「そんなまさか。うちの隊に幼い子が入ってきたっちゅうから見に来たんやけど、なんや大分隊長に懐いとるんやね」
「藍染たいちょー、この人は?」
「副隊長の市丸ギンだよ」
「どうもー、よろしゅうな」

この人が副隊長だったのか。全然強そうな感じしない。

「よろしくお願いします」
「女の子にモテモテやったらしいけど、君も大概女の子みたいなカワイイ顔しとるんやね」
「…副隊長は僕のカワイイ顔が好みなんです?」
「そやね、君が女の子やったら好みな顔立ちになりそうやったのに、残念やわぁ」

院生の頃の僕を知っていたり、話にだけでも聞いていたりする人はやっぱり僕を男だと思うみたいだ。ていうか男だと思ってくれてよかった、副隊長こわい。なんか成長するのが嫌になったぞ。

「ギン、暇なら御門君に瀞霊廷の案内をしてあげてくれないかな」
「なんでボクが?というか、この子だけ特別扱いしとってええんです?」
「どうせまともに仕事をしないんだから、そのくらいできるだろう?あと、御門君に何かしたら京楽隊長の拳骨が飛んでくるから気を付けるように」
「京楽隊長の隠し子なん?それにしては似てへんけど」

副隊長は僕の顔をまじまじと見てくる。隠し子ではないからとりあえず首を振っておいた。

「ま、お仕事サボらせて貰えるんやったらこっちのが楽やわ。ほな行こか」

僕を完璧に子供扱いしているのか、副隊長は僕の手を握って部屋から連れ出した。
副隊長に手を引かれなきゃならないほど子供じゃないし、少し腹立つ。なんかこいつむかつく。惣右介ってばよくこんなの部下にしてるな。

「君、下の名前何て言うん?」
「…秘密」
「なんでやの?」
「女の子みたいな名前だって笑われたくないから教えたくないです。あと子供だと思われてるのもすっごいむかつくから手離して欲しいんですけど」
「どう見ても子供やないの」
「京楽隊長に言いつけるよ!」
「それは堪忍や。けどそうやって人様に頼るとこが子供やと思わへんの?」

あっむかつく、口喧嘩で勝てない。やっぱ目上の人には勝てっこないのか。

「京楽隊長とどないな関係なん?」
「副隊長イジワルだから教えてあげないです」
「今から美味しい甘味処連れてったろ思ったけど、そないなこと言うんやったらやめとこか」
「副隊長ほんとは優しいなら甘味処連れてってください」
「ボクと仲良うしてくれるんやったらええよ」

仲良くなんかしたくない。したくないけど、とりあえず甘いもの食べたかったからうなづいておいた。
副隊長はにこにこしていたけど、ちょっとだけめんどくさいなって思ってしまった。

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