あこん


今日は左腕のメンテナンスをしてもらうために技術開発局へとやって来ていた。院生の頃は死神さんたちに極力会わないようにこそこそ通っていたのだが、今はもう死神になったため、堂々と通うことができるようになったのだ。
大きくて重い扉を開けると、薄暗い廊下が続いている。


「あーーー!阿近!…さん!」

廊下を走っていたら見慣れた後ろ姿があって、走っているそのままの勢いで背中に飛び付いた。
阿近さんはガチャガチャと煩い音をたてながら倒れそうになっていたけど、転けずにちゃんと踏みとどまってくれた。

「おいクソガキ、ここでは状況確認してから行動しろって何度も言ったよな…?」
「阿近が転んでも恥ずかしくないように周りに誰もいないことを確認しました!」
「そういうことじゃねぇし、さんを付けろクソガキ。俺が今何を運んでたと思ってんだ?隊長の実験道具だぞ。転んでたら隊長に殺されてただろうな、お前が」
「僕が!?阿近よく転ばなかったね!ありがとう!」
「さんを付けろって言ってんだろうが」

実験道具なんか持っているせいで阿近は動けないから、僕を振りほどけない。

「阿近さん、僕の腕見えるよね」
「本物の腕も偽物の腕も見えるけどそれがどうした。…つーか、何着てんだ?それ死覇装か?」
「ぴんぽーん!大正解!」

阿近の背中から離れて、阿近の視界に入れるように移動してみた。

「僕今年から死神になったの!祝って!」
「はーおめでとう。けど十二番隊じゃねぇんだろ?そんな話聞いてねぇし」
「うん、五番隊。僕が十二番隊じゃなくて残念だった?」
「別に」

阿近は興味なさげに歩きだした。もうちょっと興味持ってくれてもいいのに。もっと構ってほしいんだけど。

「ねー阿近」
「さん」
「…阿近さん」
「なんだ」
「僕って可愛い?」

率直に聞いてみたら、阿近は怪訝そうな顔で僕の顔をチラ見する。

「クソガキだからって気色悪いこと聞くな」
「えー、だってさー、市丸副隊長が、僕のこと女の子みたいな可愛い顔とか言ってきたんだよ。なんかむかついたけど、院生の頃も女の子たちに可愛い可愛いって言われてたから言い返せなくてさー」
「モテるって自慢してんのか?」
「僕は可愛いじゃなくてかっこいいって言われたいんだよ!何がいけないの?身長が足りないの?見た目も性格も声も大人げないから?」

あと十年とか数十年したら身長も伸びてかっこよくなれるかな。でも、成長したら惣右介が言ったみたいに、かっこいいとか以前に、性別のこと気にしなきゃいけなくなるのかな。

「涅隊長に全身改造してもらえばかっこよくなれるかもな」
「痛いからやだよ……」
「じゃあ諦めろ。大人になるまでせいぜい可愛いって言われ続けてろ」
「やだよそんなのー」
「不細工なクソガキって言われるよりマシだろ」
「そうだけど…」

死神さんたちみんな僕のことガキ扱いしすぎじゃないかな。そんなにガキっぽいなら僕ももうちょっと大人っぽく可愛いげのないことした方がいいのかな。

「かっこいいってのがどんなもんか、せっかく死神になったんだから憧れの更木隊長を見に行きゃいいじゃねぇか」
「だだだだめだよ!死神になれただけで僕まだ強くもかっこよくもないもん!こんなザコが会いに行ったってこてんぱんにされるよ!」
「じゃあもう知らねぇ」
「えーそんなこと言わずに考えてよー。阿近さんがかっこいいから阿近さんに相談してるんだよ?」

そう言うと阿近さんはピタリと足を止め、ちょっとだけ嬉しそうに僕を見る。

「そうなのか?」
「そうだよ、阿近さんかっこいいよ」
「…しゃーねぇな、もうちょい考えてやるよ」

それからしばらく、阿近さんは僕がかっこよくなるための方法を一緒に考えてくれた。頼りたい時に頼れる阿近さんはやっぱりかっこいいと思ったから、僕も人から頼られるような死神にならなきゃな。

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