いせ


死神になったはいいものの、平和な日が続いてしまうと下っぱの僕らには仕事なんか全然こなくて、暇だった。
暇だからって惣右介とかのところへ行っても、隊長ともなると普通にお仕事があるらしく、あんまり遊ぶ暇が無いみたいだった。忙しいの羨ましいとか思うけど、非力な僕が忙しいほどの仕事を与えられたら頭も体もついていかないだろう。
体はまぁ成長期さえ来てしまえば力もスタミナもつくだろうからひとまず置いといて、今の僕でも確実に底上げできるものは、知能だ。
霊術院ではずっと優秀だった僕なんだから、今だって勉強さえすれば賢くなれるはずなんだ。
僕は新たな知識を蓄えるために、図書館へ向かった。

「あれ…七緒ちゃん?七緒ちゃん!」

図書館へ行く途中、見覚えのある凛とした女性を見つけて駆け寄った。七緒ちゃんは少し不機嫌そうに僕を見た。

「七緒ちゃん、僕だよ、覚えてる?」
「どなたでしたっけ?」
「…ずっと前、京楽おじさんが仕事さぼるのに利用したこどもです」

こどもだなんて自己紹介をするのは不本意だったけど、他に言いようが無いのが悔しかった。しかもその自己紹介で僕のことを思い出してくれたらしい。

「あぁ、あのときの。まだ幼いのにもう死神になったんですね」
「そーです、がんばったんです」
「がんばるのは良いことですが……あんまり無理をすると京楽隊長が心配なさるので、ほどほどにしてあげてくださいね」

もしかして僕が何かやらかすたびに七緒ちゃんに話してたりしたのかな。おじさんってば僕のこと大好きだなー。

「それと、私のことを七緒ちゃんって呼ぶのやめてもらえます?」
「…七緒ちゃんの名字って何ですか?」
「……伊勢です」

七緒ちゃんの話はおじさんから色々聞いたことあるけど、いつも七緒ちゃんって読んでたから名字なんて初めて聞いた。七緒ちゃんしっかりした人だし、伊勢副隊長って呼ばなきゃ怒るだろうな。

「あ、僕御門鈴です。五番隊に配属されたのであんまり会えないかもしれないけど…会いに行くのでよろしくお願いします!」
「会いに来ていただけるのは嬉しいですが、京楽隊長みたいに仕事をしないで遊び呆けるのはダメですからね」
「僕は死神の仕事したいんだけどさー、新人だから仕事が全然無くってさー」
「だからこんなところをお散歩していたんですか?」

お散歩という言葉にトゲがある気がして、否定するために首を振った。

「仕事が無いから勉強しようと思って、図書館行こうかなって」
「あら、意外と真面目なんですね」
「強くて賢くてかっこいい死神になりたいからね!」

僕は本気でそう言ったのに、七緒ちゃんはくすっと笑った。ガキの夢だと思ってなめないでいただきたいよ。

「よければ図書館の案内しましょうか?」
「えっ、なんで?いいの?」
「真面目に頑張る人のお手伝いなら喜んでしますよ」

七緒ちゃんは微笑みながら僕の頭を撫でてくれた。僕ががんばるの、応援してくれてるんだよね。だったら僕はそれに応えて、七緒ちゃんみたいに賢くなりたいな。

「じゃあ、お願いします!」

お言葉に甘える形で、七緒ちゃんには図書館を案内してもらった。見たことの無いような本がたくさんあって、案内してくれた七緒ちゃんには感謝だ。
途中、京楽おじさんの書いた本を見つけたから七緒ちゃんに言ってみたんだけど、どうしてか手に取ることすら許してもらえず、七緒ちゃんが許可をしてくれるまで絶対に読んではいけないと言われ、絶対に読まないことを約束させられてしまった。

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