さぼり


「御門くん、仕事さぼって昼寝なんかしとってええの?」

一人で居たはずなのに声をかけられて、意識がはっきりした。薄目を開けてみると、僕を見下ろす市丸副隊長がいた。

「副隊長こそ、お仕事しなくていいんです?」
「藍染隊長がぜーんぶやってくれるから平気や」
「…こんな副隊長で、隊長可哀想」

我慢できずにあくびをして、潤んで視界の悪くなった目をこする。読んでいる途中だった本は、風でページが捲れたのか全然知らないページが開かれていた。

「僕お仕事無いから欲しいくらいなのに、副隊長は贅沢です」
「せやったら代わりにボクの分まで働いてくれてもええよ?」
「僕じゃ副隊長の代わりは務まらない。だから…」

僕は本を閉じて立ち上がり、副隊長の腕を掴んだ。

「副隊長を隊長のところにお届けするくらいのお仕事ならさせてもらいます」
「えー。いややー」
「副隊長のくせにワガママ言わないでください」
「席官でもないくせに上司に指図せんとって」
「指図じゃなくてお願いです!可愛い部下のお願い聞くのも上司のお仕事だと思います!」

割りと無理を言っている気がするが、市丸副隊長ならまぁいいかと思ってそのまま腕を引いて執務室に向かった。

「御門くんさー」
「…何」
「副隊長にそんな偉そうな態度でええと思っとるん?」

真面目なトーンでそう言われ、少しびびってしまう。副隊長の少し前を歩いているため表情が確認できず、振り向くこともできない。

「な、生意気でしたでしょうかっ」
「うん、生意気。せやから藍染隊長にお仕置きしてもらおか」
「……藍染隊長はお仕事さぼる副隊長の方にお仕置きをすると思うのですが」
「何がええやろ、お尻ぺんぺんの刑?」
「ふ、副隊長は隊長にお尻叩かれたいの?」
「何言うとるん?お尻叩かれるんはボクやのうて御門くんや」
「隊長は僕を叩いたりしない」

悪いことしてないのに叩かれてたまるもんか。副隊長からしたら仕事を強制されて悪いことなのかもしれないけど、副隊長なんだから仕事するのは当たり前だろう。七緒ちゃんだって上司に仕事しろって注意してるんだから、僕だって。

「それにしても御門くんの腕ほっそいなぁ。ちゃんとご飯食べとる?」
「食べてるし毎日牛乳飲んでるもん」
「牛乳?おっぱい育てとるん?」
「身長伸ばすために決まってるだろ!!」
「御門くんは身長もおっぱいも小さい方がええと思うけど」

副隊長には女だってこと言ってないのになんでそんな話してくるんだ。というか男だと思ってるからこそ、女みたいだって馬鹿にしたいのか。

「あんまり馬鹿にするなら、あれだよ、怒るよ」
「京楽隊長に言いつけるんやなくて?」
「…言わない。僕はもうガキじゃないから自分で怒る」
「こないなことで怒るなんて子供っぽいわぁ」
「……副隊長の意地悪」

こんなやつ早く惣右介に怒られてお尻ぺんぺんの刑をくらえばいいんだ。
僕は歩く速度を速めて、副隊長に何と声をかけられても無視し続けて執務室に辿り着いた。一声かけてから扉を開ければ、予想通り惣右介はお仕事中だった。

「藍染隊長!副隊長連れて来たからお尻叩いてあげてください!」
「えーっと…僕にそういう趣味は無いんだけど」
「た、隊長なのに仕事さぼる副隊長を怒ることができないの!?実は副隊長のさぼりって許されてたの!?」
「あぁ、そういうことか。だったら残りの分は全部ギンに片付けて貰おうかな」
「か、堪忍や」

どうやら僕は惣右介の役に立てたらしい。
副隊長を無理矢理座らせ机に向かわせた。副隊長は肩を落として渋々書類に目を通し始めた。

「ね、ね、藍染隊長、今からまだお仕事するの?」
「いや、ギンと御門くんのお陰で今日やるべきことはなくなったよ」
「ほんと!じゃあ僕とご飯食べに行こ!この前友達に美味しいお店教えてもらったの!」
「なんやそれ!ボクも行く!」
「副隊長はお仕事しててください」
「御門くん僕に冷たない!?」

副隊長に冷たくするのなんか当たり前だろう。散々僕を馬鹿にしたりからかったり、牛乳の努力を笑ったりしたんだから。
でもあんまり差別して本格的に嫌われるのはまずいかな。

「お仕事ちゃんと片してくれたら、今度美味しいお店教えたげます」
「ほんま?」
「うん」

まぁ、教えてあげるってだけで一緒にご飯食べてあげるなんて言ってないんだけどね。でも副隊長喜んでるみたいだし、それをぶち壊すのはまた今度にしておいてあげよう。

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