うつくしさ


僕は久しぶりに十一番隊舎に足を踏み入れていた。あの頃と違うのは、僕が身に纏う服だ。今度はきちんと死神として、ここに訪れていた。
あの頃と同じで十一番隊の人からしたら僕はよそ者でしかないから訝しげな目で見られていたが、声をかけられないように速足で歩いた。

「よぉボク、こんなとこに何の用だぁ?」

それでも絡んでくる奴はいるらしく、僕の肩を掴んで動きを止めてきた。ボク、って言ってくれたってことはちゃんと男扱いしてくれたんだって嬉しくなったけど、子供に声をかけるときの呼び方だから少しむかついた。

「綾瀬川五席に用があって。何処にいるかわかりますか?」
「おめーみたいなガキがあの人に何の用だ」
「何の用だか言わないと会わせてもらえないんですか?」

むかむかして睨み合っていたら、「ねぇ」と声をかけられた。今度は誰だと振り向くと、見間違うはずもない目的の人物がいた。

「わーい、弓親〜!」

おっさんの手を叩き払い、弓親に駆け寄って手を握った。

「相変わらず美人だね!ていうか前より綺麗になった?久しぶりだよね、僕のこと覚えてる?」
「覚えてるよ、君も相変わらず美少年だね」
「ありがとー!でも前よりちょっと身長伸びたし成長はしてるよ!」
「そうだろうね、前会ったときはびびって震えてたし」

一度会っただけなのに、何年も経ったのに弓親は僕のことを覚えていてくれた。嬉しい。

「弓親が言った通り、ちゃんと死神になったよ」
「まさか本当に死神になるとは思わなかったよ。あの時の感じからすると、更木隊長に会いたかっただけだろう?十一番隊に入れなくて残念だったね」
「…強くなったら十一番隊行くもん。僕まだ弱いから、十一番隊には入れないよ」
「今何番隊なの?」
「五番隊だよ」

本当は強くなるまでここには来ないと決めていた。弱いままの僕が来ても誰も歓迎してくれないと思ったから。でもそんな悠長なことを言ってられるほどの強さすら無くて、僕はここへ来てしまった。

「僕もっと強くなりたいんだ」
「それは良いことだ」
「だから…弓親、僕を鍛えて強くして欲しい」

真っ直ぐ目を見てお願いをする。弓親は少し驚いていたけど、軽く首をかしげた。

「なんで僕?」
「僕が入りたいのは十一番隊だから、十一番隊の人に鍛えてもらうのが一番だと思って。それに弓親、五席だから強いんだろうし……他に頼める人がいないんだ」
「君が十一番隊に入りたくても、君が十一番隊に向いているとは限らないよ。風の噂で聞いたけど、君は鬼道の方が得意みたいだし」
「だからこそ、剣の腕を磨きたいんだ。鬼道より剣術が得意だって胸張って言えるようになったら、十一番隊に入らせてもらいたい」

苦手なものがあるから得意な鬼道に頼ってしまう。剣術も体術も得意にしてしまえば、どんな状況にだって対応できるはずだ。

「僕も、弓親みたいに強くてかっこよくて綺麗に輝くようなすごい死神になりたいんだよ」
「他にも強かったりかっこよかったり綺麗だったりする死神はいると思うけど」
「僕の理想を全て兼ね備えてるのは弓親だけだし、弓親は誰よりも綺麗で美しいよ!」
「嬉しいこと言ってくれるじゃないか」
「全部本当のことだよ」

嬉しいと言ったのは本音らしく、わしゃわしゃと僕の頭を撫でてくれた。喜んでくれたみたいで僕も嬉しい。

「僕の指導は厳しいよ?」
「それで強くなれるならいいよ」
「わかった。それじゃあ明日から特訓始めようか」
「……今日は?」

まだお昼前だから、今日だって特訓しようと思えばできるのに。何か用事でもあるのかな。

「綺麗に輝く死神になりたいんだろ?」
「うん」
「まずそこからだね。肌と髪の手入れに必要なものを揃えに行こう」
「強さは!?」
「僕の言う通りの生活に改善できたら特訓してあげるから」

たしかに弓親みたいに綺麗で強い死神になれたら嬉しいけど、なんで強さが後回しなんだ。僕は強くなりたくて頼みに来たのに。

「君はせっかく綺麗なんだから、ケアを怠っちゃいけないよ。成長と共に劣化なんてことになったら許さないからね」
「劣化は嫌だな…」
「だから僕が君の美しさを保ってあげるんだってば」


それから弓親の行き付けのお店に連れて行かれ、弓親は僕に色んなものを買ってくれた。おごられるのは申し訳ないからと断ったのに、入隊祝いだとか何とか言って、化粧水だとか美容液だとかとりーとめんとだとか、聞いたこともない薬品を大量にプレゼントされてしまった。
使い方もいっぱい説明してもらったけど、何が何だか理解できなくて、結局覚えることを諦めて全て紙に書いてもらった。とりあえず今日の入浴時からこれらの使用が始まるみたいだけど、僕はさっそく折れそうだった。

- 17 -

←前次→