あまい


「七緒ちゃん、いつもありがとっ」
「いえいえ」

七緒ちゃんとは毎週図書館に通って一緒に本を読むくらいには仲良くなっていた。そしたら次第に七緒ちゃんって呼んでも怒らないでいてくれるようにもなった。もしかしたら注意するのが面倒になっただけかもしれないけれど。
とにかく七緒ちゃんは僕に優しくて協力的で、頼れるお姉さまって感じだ。

「七緒ちゃんは甘いもの好き?」
「好きですよ」
「じゃあさ、来週は図書館行く前に、甘いもの食べに行こ?友達に美味しい甘味処教えてもらったからさ」
「ええ、喜んで」

七緒ちゃんはいつも凛としてクールで知的な表情だけど、僕にはたまーに優しく柔らかく微笑んでくれる。それが嬉しくて、僕はなんとかして七緒ちゃんを笑わせたくなる。いつも京楽おじさんのせいでいらいらしてたりするから、僕が七緒ちゃんを喜ばせてあげたい。

「七緒ちゃんは笑った方がかわいいね」
「それはどうも。御門さんも笑った方がかわいいですよ」
「僕はかわいいって言われても嬉しくないけど…」
「最近かわいさが増してると思ったんですが、かわいくなろうとしてるんじゃないんですか?」
「ええっ!?そんなこと全然……」

ないこともなかった。弓親の言い付けを守って生活しているから、自分では解らないが恐らく些細な変化はあるはずだ。髪も肌も爪も全部手入れすることを強要されているから、七緒ちゃんの言葉を否定できなかった。

「中身は子供そのままですが、見た目は前よりも大人びたというか」
「ほんと!?成長した!?」
「そういうところが子供っぽいって言うんです。まぁ、それも貴方の魅力でしょうけどね」

早く魅力的な大人になりたい。かっこいいのを目指してるはずなのにまだ七緒ちゃんにかわいいなんて言われてしまう。本当に弓親の言う通りにすれば綺麗で強くてかっこいい死神になれるのだろうか。

「でも髪はさらさらだし肌もつやつやだし、ちょっと羨ましい…」

そう言いながら七緒ちゃんは僕の短い髪に指を通したり、頬を撫でたりつついたりしてくる。やっぱり七緒ちゃんとか弓親とか、仲の良い人なら触られても気持ち悪くならないな。むしろもっと頭撫で回して可愛がって欲しくなる。

「毎日美容に異常な時間をかけてれば綺麗になれるよ。僕は暇を持て余してたからちょうどよかったけど、世の美人さんたちは忙しくても美容美容って気にかけてるんだよね…すごいよね……」
「そんなに美容に気を付けてるんですか?」
「…強くなる特訓してもらってるんだけど、特訓に明け暮れて美しさを損ねたらダメだって言われて、綺麗にしてるの」
「誰に特訓してもらったらそんなことになるんですか」
「十一番隊の五席の人」

七緒ちゃんは少し考えて、弓親だと解ったのか納得したような表情をした。

「でも強くもなれて綺麗にもなれるなら一石二鳥ですね。特訓の成果はどうなんです?」
「い、一応、強くなったと自分では思ってるよ?始解はできないけど……でも最近、十一番隊の人たちと勝負して勝てることも増えてきたし、強くなってるはずだよ」
「もうちょっと体が成長すれば筋肉もつきやすくなって楽になるとは思いますけどね」
「頑張って牛乳飲んでるんだけどなー」

死神は年を取るのに時間がかかる。つまり成長するにも多大な時間を要するということだ。毎日牛乳を飲んでも、効果が出るのはいつになることやら。

「成長したい!って思ってはいるんだけど、たまーにこのままでもいいかもって思う時はあるんだよ」
「小さい方が都合がいいと?」
「そ。だって、みんなに甘えたって子供だからって許してもらえるんだよ。だから、人に甘えなくていいくらい強くなってからおっきくなりたいなーって」
「大きくなっても甘えたがる人もいますしね」

たぶん京楽おじさんのことだな。おじさんが仕事をさぼるのも七緒ちゃんへの甘えだろうし。七緒ちゃんも大変だ。

「七緒ちゃんもそういう人だっていうなら、僕に甘えてくれたっていいんだよ。そしたら僕も遠慮なく七緒ちゃんに甘えられるからね!」

七緒ちゃんの空いている左手をぎゅっと握る。同じ性別だってのにこんなに大きさが違って思えるのは、やっぱり僕が未熟だからか。

「普段から何の遠慮もしてないでしょう」
「七緒ちゃんがそれで許してくれるからね」

きっと七緒ちゃんがこんな風に手を繋いで歩くのは僕くらいだろう。僕がまだまだガキだから受け入れてくれるんだろう。だから今のうちに、成長してしまう前に存分に七緒ちゃんには甘えておきたいな。

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