こども


「藍染隊長〜」

お仕事の邪魔になるかとも思ったけど、あまりにも暇だったから執務室へと足を運んだ。きっと副隊長もいるんだろうなぁと思ったらちょっと嫌だったけど、執務室の中には惣右介しかいなかった。

「あれっ、副隊長は?」
「いつも通りさ」

いつも通りのさぼりをきめているらしい。そんなに仕事しないなら僕に副隊長の座を譲って欲しいとも思ったけど、そんな実力が無いのが悔しい。

「じゃあ今忙しいね?」
「最近は平和だから、君が思うほどの仕事量は無いさ」
「お邪魔していい?」
「君を邪魔だと思ったことはないよ」

大人の余裕で嬉しいことを言ってくれる。僕は惣右介に近づいて、椅子に腰掛ける惣右介の膝に乗った。

「重い?」
「全然」

惣右介は僕の体に左腕を回して固定する。重くないならと遠慮せず惣右介に背中を預けると、なんだか心地好くて安心した。惣右介は器用にも、空いている右手で書類を片付けていく。

「最近惣右介忙しそうだったしさー、なのに副隊長は仕事さぼってふらふらしてるし、だからって副隊長が仕事してると邪魔になると思ってここ来れなくてさー」
「だから最近は姿を見せてくれなかったのかい」
「なーに?僕のかわいい姿が見たかった?」
「そうだね、前見たときより一段とかわいくなったみたいだ」

そういえば最近は手入れしてるから、この冗談を言うのもちょっとナルシストっぽくて冗談に聞こえないかもしれないな。
それに惣右介は僕が女だって知ってるから、普通の反応しかしてくれないから面白味がない。やっぱり修兵みたいに、僕を男だと思ってる人にこういうこと聞いてふざける方が面白いなぁ。修兵が死神になるまで、あとどれくらいかかるのかな。早く会いたいなぁ。

「かわいくもなったのかもしれないけど、ちゃんと強くもなってるんだよ!」

両腕を前に出して、筋肉がついたであろう腕を眺めてみる。つい最近まで左右の長さ太さに多少の違和感があったのに、その違和感がなくなっていた。両手を合わせて大きさを比べてみると、左右の差はほとんどなくなっていた。

「惣右介!僕成長してる!」
「よかったね」

でもこのまま成長を続けて左腕の義手より右腕が長くなるようなことがあったら、前みたいに無茶苦茶な方法で腕の交換をさせられるのだろうか。それも嫌だな。

「しかしよくできた義手だね。本物みたいだ」
「涅隊長の技術だからね。これ、ちゃんと僕の血肉を採取してなんやかんやで造ったんだって。説明聞いてもよくわかんなかったけど、涅隊長ってすごいね」

ネムちゃん一人造り出せるくらいだからこのくらい造作もないことなんだろうけど、あの人の技術力は尊敬するし感謝もしている。ただ、性格に難があるけれど。

「僕、あの人が居なかったら今ここに居ないし、お家に引きこもって京楽おじさん泣かせてたと思う」
「そんなことになっていたらこうして僕と君が会話をすることも触れ合うことも無かっただろうね」
「僕がいなかったら……いなくなったら、惣右介は寂しい?」
「寂しいよ」

惣右介は仕事を中断して僕を両腕で抱き締めた。僕はいなくなったりしないし、そんな真面目な質問をしたつもりもないのに、惣右介は本当に寂しそうで、こんな質問するべきではなかったみたいだ。

「僕ってば惣右介のお気に入りになっちゃったみたいだね」
「そりゃあ、これだけ懐いてくれたら気に入るさ」

そうだよねー、懐かれるとかわいくてかわいくてしょーがないんだよね。僕も院生のとき修兵がかわいくてかわいくてしょーがなかったし。

「僕のことこんなに贔屓してかわいがってて大丈夫?僕刺されない?」
「誰も見てないさ」
「そういう問題かな」

まぁ僕も誰も居ないのを見計らって甘えてるんだけど。
でも惣右介はちゃんとした隊長だし、こんなことで贔屓して僕の給料を上げたり昇格させたりとか、そういう汚い贔屓はしないって信じてるし。給料上がるのも昇格するのも嬉しいことだけど、僕にそんな実力も無いのにただの汚い贔屓でそんなことされたら惣右介を、藍染隊長を、軽蔑すると思う。

「今は存分に甘やかして欲しいんだけど、大きくなったらちゃんとみんなと同じ扱いして、甘やかさないようにしてね」
「じゃあこうしていられるのも今のうち、かな」
「うん、きっと僕が大きくなって強くなったら、こんなに甘えたがらないと思うから」

思うけど、強い大人なはずの惣右介がこんなに僕に甘いのはなんでだろう。子供な僕のために抱き締めてくれているのか、それとも惣右介がしたいからしているだけなのか。だとすると惣右介ってば強い大人なくせに、甘えたがりなのだろうか。大人でも甘えたい時ってのがあるのかな。

- 19 -

←前次→