さいかい


春になってそこらじゅうで桜が満開で綺麗だったから弓親をお花見に誘いたかったんだけど、今日はどうやら十一番隊の暇な人みんなでお花見をするらしい。逆に僕が誘われたんだけど、僕はまだ更木隊長に会えるような心と体の準備ができていなかったから断った。それにみんなお酒飲んではしゃぐみたいだし、僕には無理だった。
仕方がないから三色団子とジュースを買いに行って、一人でお花見することにした。一人でいるところを見られるのがちょっと恥ずかしかったから、人のいない所を探し回ってやっと見つけた穴場の桜の木の下でゆっくりとすることにした。

一人だから好きなだけ食べられると思って団子の他にも桜餅とかいろいろ買っておいたけど、一人で食べてもあんまり楽しくなくて食べきれなかった。
お腹もいっぱいになり、降ってくる桜の花びらを眺めていたら眠くなってきてあくびがでてきた。
このままここで寝てしまおうと思ってうとうとしていたら、眠気のせいで人が近付いて来ていたことに気付かなかった僕は、背後から両目を覆い隠された。

「だーれだ」

突然のことに戸惑いつつ、聞こえてきた声で僕の意識ははっきりした。

「修兵!」

修兵の手を払って、振り向きざまに抱き付いた。その勢いで修兵は地面に倒れてしまったけど、構わず僕は修兵から離れなかった。

「死覇装だー!おめでとー!久しぶりー!待ってたよ!会いたかったよ!」
「久しぶりだからってはしゃぎすぎっすよ」
「修兵だって僕に会いたいからわざわざこんなとこまで来てくれたくせに〜」
「つーかなんでこんなとこに一人でいたんだよ。友達居ないんすか?」
「いる!うるさい!」

体を起こして、僕の下で倒れている修兵を見下ろした。見慣れたはずの修兵の顔には、痛々しい三本傷が増えていた。

「なっ、何それ!?どしたの!?」
「いや…実習でちょっと、虚にやられちまって」
「他に怪我は!?」
「これだけだよ」

これだけとか言うけど、かわいい修兵の顔に傷跡があるなんて。せっかくいい顔してたのにもったいない。

「そんな顔すんな。跡が残っただけで、もう痛くもかゆくもねーよ」

修兵は困ったように笑って僕の頭を撫でる。そんなことされても修兵の傷は消えないのに。

「何だこれ…髪の毛さらっさらじゃないっすか」
「羨ましいでしょ」
「いや別に。こんなに手入れしてどうすんだ?彼女でもできたんすか?」
「僕は恋人いないしいらないの。修兵こそ彼女の一人や二人作ってないの?」
「いねーよそんなの」

もったいない。あの頃修兵のこと見てる女の子ちゃんといたのに。傷が怖くて寄り付かない、ってのはあるかもしれないな。

「まぁでも彼女いないならまた僕と遊んでくれるよね!」
「仕事ねーんすか」
「修兵もしばらくすれば暇ができると思うよ。平和だから特訓以外に大してやることないし。それで、何番隊入ったの?」
「九番隊っす」
「…僕五番隊」

修兵と離れてしまった。寂しいし暇なときどんどん会いに行ってやろ。

「先輩があの頃と全然変わってなくて、ちょっと安心しました」
「ちゃんと成長してるけど、嫌み?」
「成長したようには見えねーよ」
「修兵は相変わらず意地悪だしかわいくないね」
「先輩はかわいさに磨きがかかったな」
「そういうのが意地悪だっての!」

やっぱり弓親の指導はそっちに効果をもたらすんだよな。全然かっこよくなれないじゃないか。

「背だって伸びた!修兵立って!」

僕が先に立ち上がり、修兵の手を掴んで立ち上がらせた。僕の背は少なくとも十センチくらいは伸びたはずなのに、修兵との差が広がっているような気がした。

「残念だけど俺も伸びた」
「悔しい!ずるい!」
「相変わらず小さいな」

修兵はにやにやしながら僕の頭を撫で回す。悔しくてむかつく。

「僕は小さくたって修兵と違って女の子にモテるからいいんだよ!」
「俺だってモテねーわけじゃねーし」
「じゃあなんで彼女いないの」
「好きでもねーのに付き合ったってしょうがないだろ」
「…まぁ、そうだよね」

僕だってそうだから誰とも付き合わないわけだし。そんなことより強くなって更木隊長に成果を見せなきゃいけないし。

「そんなことより修兵、お花見の途中だったんだけどお団子食べる?余っちゃって」
「…しょうがないな。忙しいけど花見くらい付き合ってやるよ」
「へーっ、忙しい中わざわざ僕のこと探してきてくれたんだ?嬉しいねぇ」
「うっせ」

それから二人で飲み食いしながらお花見をして、色んなことを話した。
久しぶりに会った後輩がわざわざ会いに来て、空いていた期間なんて感じさせないくらいにあの頃のままの態度でいてくれて、僕はなんて良い後輩を持ったんだろうと嬉しくなった。

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