うわさ


「なぁ御門くん、伊勢副隊長と付き合うとるってほんま?」
「はぁ!?」

突然市丸副隊長に突拍子もないことを聞かれた。

「全然違います、付き合ってなんかないです」
「なら御門くんの片想い?」
「僕は…!…副隊長が思う通りクソガキなので、彼女なんかいないし、初恋もまだのクソガキなんです」
「へぇ!モテるんにもったいないなぁ。彼女でも彼氏でもすぐできそうな顔しとんのに」

それは僕が女にも男にもモテるっていうことであって、数年前に男に告白されて襲われていたところを見た副隊長だからこそ言える台詞であった。
あの時は見逃してくれたかのようにアレのことは何も聞いてこなかったくせに、今ごろになって引っ張り出してくるなんて。

「喧嘩売ってんですか、副隊長」
「いややなぁ、そんなわけないやん。怖い顔せんとって?」
「…」
「色んなとこで、御門くんと伊勢副隊長が毎週欠かさず手繋いでデートしとる目撃情報があるんやけど」
「だから何ですか」
「否定せぇへんの?」
「デートじゃないです」

僕は大多数に男だと思われてるから、迂闊なことをしていたらそんな噂を流されるのは当然だった。七緒ちゃんごめん。
僕が女だってことを今言えば完全に否定できるんだけど、わざわざ言いたくないし、そんなこと主張してたら十一番隊に異動させてもらいづらそう。あそこ男ばっかだし。

「いっつも子供扱いばっかしてくるのになんでそういうときだけ男扱いしてくるんですか」
「世の中そういうもんや」
「…副隊長って本当に意地悪ですよね」
「だって御門くん全然ボクに懐いてくれへんのやもん」
「それは副隊長が意地悪だからなんですけど」

ていうか副隊長いつも何考えてるかわかんない表情してるし怖いし。

「ほんとは僕だって副隊長と仲良くしたいし副隊長にかわいがってもらいたいけど、副隊長意地悪だからかわいがってくれないと思って」
「ご飯誘ったりおやつ誘ったり、結構かわいがっとる方やと思ってんけど」
「……あれ、ほんとだ」

もしかして普段の言動が意地悪でうざいだけで、本当はかわいがられてた?ご飯とか一緒に食べに行くとおごってくれたし。

「御門くんがボクのこと警戒しすぎなんやってー」
「…なんかごめんなさい」
「謝らんとって。仲良うしてくれたらそれでええから、な?」
「…もう意地悪してきませんか?」
「考えとくわ」

そこでしないと答えてくれないようなところが苦手だってのに。副隊長は隙が無い。

「御門くんこのあと暇なら一緒にご飯食べに行かへん?」
「僕は暇ですけど副隊長はこのあとも今も本当は暇じゃないですよね」
「なんでわかったん」
「本当にそうなんですか?さぼらないでください、藍染隊長可哀想です」
「なんや藍染隊長藍染隊長って。たまーに惣右介〜って呼んどるくせに。どないな仲や」

副隊長がいるときでも気が抜けると惣右介と呼んでしまうことが今でもある。直さなきゃとは思うから二人で居るときも隊長って呼ぼうとするんだけど、そうすると惣右介がちょっと寂しそうにするから呼び方を変えられなくて困る。

「僕が死神になる前に友達になったから、名前で呼ぶようになったんです。いけませんか」
「ボクのこともギンって呼んでくれてもええよ」
「副隊長とはそこまで仲良くなった覚えないです…」
「御門くん僕と仲良うする気あらへんやろ…」

不真面目な人と仲良くする気はありません。

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