そんけい


「副隊長、何見てんですか?」

いつもはふらふら出歩いて仕事をさぼっている市丸副隊長が、今日は執務室で堂々と瀞霊廷通信を広げて仕事をさぼっていた。雑誌にはあまり興味が無かったから今まであまり見たことなかったけど、隣に行って覗いて見るとちょっと面白そうな本ではあった。

「乱菊さんだ!」
「ちゃうやろ、こっち見てみ」
「え?あ、副隊長じゃん」

通販のページがあって、そこには数人の死神の写真集の紹介があった。なぜか市丸副隊長の写真集まで販売するとのことで、どこに需要があるのか謎だった。

「そんなにお金欲しかったんですか?」
「ボクが儲けたかったんやなくて、みんながボクの写真集を欲しがっとるんよ」
「…どこからそんな自信がでてくるんですか?悪いけど僕は副隊長のより乱菊さんの写真集のが欲しいです」
「鈴ちゃんはボクをどんな目で見とるん……」
「下の名前で呼ばないでください。副隊長とそんなに仲良くなった覚えありません」

鈴ちゃん、なんて呼び方、女の子みたいじゃないか。人に聞かれて性別ばれたらどうする。

「誰が副隊長の写真集なんか買うんですか?」
「知らへんの?ボクこう見えて、女の子たちに結構人気あるんよ」
「えー」

別に副隊長なんかかっこよくないのに。キツネみたいな顔してるし、いつもにやにやしててむかつくし、何考えてるかわかんないし、髪の毛も白髪…じゃないな、銀髪なのかな?きらきらしてて綺麗だよね。線も細いし、背も高くて、頼りがい無くて、でもピンチのときは助けてくれて、副隊長だしそれなりに強くて。
よく考えたらミステリアスでかっこいい、ということになるのかな?あれ?意外と副隊長ってかっこいいのか?

「そないな風に見つめられたら恥ずかしいやん」
「気持ち悪いから恥じらわないでください」
「ひど!」

乱菊さんの写真集出ること、修兵知ってるかな。紹介してやらない代わりに、写真集のことくらい教えてあげるか。

「瀞霊廷通信って毎月出てるんです?」
「うん。京楽隊長の連載も載っとるよ」
「それは……伊勢副隊長と、読まないって約束をさせられたので、読めないです」
「へぇ」

副隊長はくすくすと笑う。何が可笑しい。

「伊勢副隊長にも子供扱いされとるんやね」
「はい?」
「官能小説言うたらわかる?子供には読ませられんもんのことや」
「…なんで子供は読んじゃだめなの?」
「えっちぃ内容しとるで読ませられへんのや」

おじさんてば、そんなものをこのみんなが読む雑誌で書き続けていたのか。不純だ。でもあれだけ刊行されていたのを見ると、やっぱり需要はあるということか。みんなえっちぃの好きなのか。大人っていやだな。

「僕には必要ないから、伊勢副隊長の判断は正しいです」
「せっかく今読める機会があるんに、読まんでええの?伊勢副隊長見とらんで?」
「…おじさんのそんなの、読みたくない」

わざわざ七緒ちゃんが禁止してくれてるんだから、読む必要が無い。知らなくていいものをわざわざ知るなんて面倒なことはしたくない。

「うわっ!副隊長なにこれ?副隊長すごい撮られてるね?そんなにお金欲しかったの?」
「…君、ボクのこと嫌いやろ」

巻頭撮り下ろしグラビアとかいうページで、色んな副隊長の写真がいっぱい載っていた。お金欲しさに自分を売ったのかとも思ったけど、そんなことで巻頭ページをもらえるとも思えないし、わざわざ撮影の依頼がきていたんだろう。写真集だけでは足りないというのか。

「副隊長って意外とかっこいいね」
「やっと気付いたん?」
「全然好みじゃないんでかっこいいかどうかとかそんなこと気にしたこと無かったですしね」
「ひどいわぁ」

更木隊長が表紙で更木隊長の写真いっぱい載せてくれたらこの雑誌買ってもいいのに。怖くて売り上げ落ちるかな。でも副隊長より見てて楽しいと思うけどな。

「ここまで近くでボクのこと見られる女の子鈴ちゃんくらいなもんやけど、ボクのことかっこよくて好きーってなったりせぇへんの?」
「女の子扱いされるの面白くないから、副隊長いやー」
「せやかて君のこと女の子だって知っとらんとお付き合いできへんのやから、女の子扱いされるの嫌やったら彼氏なんかできへんのやない?」
「前も言ったけど誰とも付き合う気なんか無いってば。なんでそんなことばっか言ってくるんですか?もしかして副隊長ってば僕のこと大好きでお付き合いしたいんですか?」

写真の副隊長から現物の副隊長へと視線を移すと、薄く開かれた目と視線が交わった。近くで見るとかっこいいなぁ、なんて思ってしまう。

「迂闊にそないなこと聞かん方がええよ」
「図星だから?」
「図星やった場合、聞かれた方は性別関係無く困るやろ。実はその通りなんや付き合うてーなんて言われたら、どないするん?」
「…めんどくさい」
「せやろ?」

僕が冗談のつもりでも相手が本気だったら確かに困る。興味の無い色恋沙汰で困らされるのは非常にめんどくさい。

「副隊長でもたまには役に立つこと言ってくれますね」
「まぁボクは鈴ちゃんが成長したら付き合いたいんやけどね」
「副隊長はさっき僕がめんどくさいって言ったの聞いてなかったの!?」
「せやから成長するまで待つ言うとるやん」
「成長したら強くなるから十一番隊いきます!!」
「あんな男だらけんとこ行ったらあかんて。鈴ちゃんみたいな可愛い子、何されるかわからへんよ」
「だからっ、名前で呼ぶな!指図すんな!僕の夢を壊すな!」

彼女でも所有物でも何でもないただの部下である僕を、普通に可愛がってくれる分には感謝してる。それでも可愛いとか言ってくるの鬱陶しいし十一番隊に行くの反対されるのはむかつくし、そこに関しては副隊長は関係ないから口出して欲しくないし。僕の当初の目的は更木隊長に会って、あわよくば十一番隊に入るってことなんだから、達成したい。

「…鈴ちゃん、ボクのこと嫌いなん?」
「だから名前…」

もう一度怒ろうと思ったのに、副隊長が結構真面目に聞いてきたものだから、言葉につまってしまう。

「…最初は嫌いでしたけど、僕のピンチに駆け付けて助けてくれたあの時からずっと好きだし尊敬してます。だから、失望するようなことばっかしないでください。常にかっこいい副隊長として過ごすのは無理なんですか?」
「…好きや言われてドキッとしたんやけどどうしてくれるん?」
「考え直してください。僕にその気はありません」

また僕がピンチにでもなったら、またかっこいい副隊長を見れるのだろうか。この調子だと、もう副隊長のことをかっこいいと認識することが無い気がする。

「鈴ちゃんこそ考え直してボクに惚れたりせぇへんの?」
「それって恋の惚れるってことですよね。僕はどんなに考えても惚れる方法が解らないから無いと思います」
「えー」
「あんまりそんなことばっか聞いてくるなら、副隊長のこと嫌いになりますよ」

せっかく僕が初めて真面目に副隊長に尊敬していることを伝えたのに、全部恋愛事に絡まれては腹が立つ。僕が真面目に話したって副隊長がそうやって不真面目なこと言うなら、もう真面目に対応してあげたくなくなる。

「そ、それは堪忍や」
「そうでしょ。僕だって副隊長のこと嫌いになりたくないから、もうこの話終わり」

僕は瀞霊廷通信に目を戻して、次のページにめくった。それでもまだ副隊長の写真ページが続いていて、ちょっとうんざりした。

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