ゆうせん


修兵に乱菊さんの写真集のことを伝えるために、はるばる九番隊舎までやってきていた。堂々と会いに行けば早いのだが、修兵が仕事中だったらいけないから、木陰に隠れながら修兵を探し回っていた。
木陰で待機すること数十分、修兵含め四人の死神が喋りながら現れた。飛び出せば絶対に気が付いて貰えるだろうけど、仕事の大事な話だったら邪魔になるし迷惑をかけてしまう。どうするべきか迷いつつ修兵に友達?がいたことに感激しながら眺めていたら、ふとこっちの方を見た修兵と目があった気がした。咄嗟にまた木陰に身を隠してしまったが、次にまた木陰から顔を出した時には、すぐそこに修兵が近付いてきていた。

「わっ、修兵」
「どうしたんすか、わざわざこんなとこまで」
「修兵が暇そうだったら話そうと思ったんだけど……今良かったの?人と一緒だったから帰ろうかと思ったんだけど」
「いいっすよ、大した話してなかったし」

ってことは仕事の話とかでは無かったってことかな。ただの友達か。だとしてもその友達よりも僕のところに来てくれたのは嬉しいな。

「あのね、この前たまたま瀞霊廷通信読む機会があって、見てたら乱菊さんの写真集が出るって書いてあったから、修兵に教えてあげようと思って」
「それなら知ってますよ」
「あれ、そうなの?じゃあ僕は無駄足だったのか…」
「つーか先輩、瀞霊廷通信って誰が作ってるか知らないんすか?」
「え、知らないよ」
「九番隊が作ってるんすよ」

そんなもの知るわけないじゃないか。ていうか制作者に瀞霊廷通信の情報伝えに来たとか間抜けにもほどがある。

「俺は新入りだから編集作業とかに参加はしてねーけど、自分の隊で作られてるもんだから読んでるんすよ」
「じゃあそのうち参加したりするの?だったらさ、市丸副隊長なんかの写真見てもつまんないから、更木隊長の特集とかしてほしいな!」
「…それは、取材と撮影行くやつの骨が折れるな」
「修兵が行けば」
「いやいやいや……あれは怖い、無理だろ」

そうなると、瀞霊廷通信で更木隊長の姿を見かけることは不可能に近い。やはり人に頼ってないで自分の足で会いに行くしかないか。

「それにあの人じゃ女の子からの人気の問題で瀞霊廷通信の売り上げに響きそうなんだよな…」
「売れすぎて困るの?」
「ちげーよ。よく売れるときはだいたい市丸副隊長とか朽木隊長みたいなかっこいい人気者が絡んでるときなんすよ。更木隊長じゃあ、その、ベクトルが違うだろ?」

なんとなく解る気がするけど、解らない。僕は女の子だけどその二人より更木隊長がいいけど。なんてことは修兵には言えないけど。

「じゃあ修兵の特集組んだらバカ売れしちゃうね」
「は?なんでだよ」
「え?修兵の顔なら売れる方のかっこいいに含まれるんじゃないの?」
「……そうか?」
「僕はそう思うけど」

え、もしかしたら違うのか。もしかして僕の見る目がおかしいのか。だから市丸副隊長が人気だという事実を疑ってしまうのか。

「御門先輩の方が女の子人気あると思うけどな。実際そうですし」
「まぁそうだね。最近も女の子に告白されたり美味しいものもらったりしてるし」
「…やっぱモテんじゃねぇか」
「藍染隊長の立ち居振舞いを観察して真似してたら、最近凛々しくてかっこよくなったってよく言われるようになってね、えへへ。僕がかっこいいって、へへ」
「そう言えば喜ぶって女の子たちも気付き始めただけじゃないっすか。前も言ったけどどう見ても可愛さに磨きがかかってるって」
「そんなことないし!」

でも本当に僕を喜ばせるためだけにかっこいいって言ってるとしたら、僕ほんとはかっこよくなんかなってないんじゃないか。でも女の子たちが僕を喜ばせようとしてくれてるってのは普通に嬉しい…。

「俺が編集に関わるようになったら、最初の仕事は御門先輩の特集組んでやりますよ。女の子のファン絶対に増えるし、あわよくば男性ファンも増えるかもしれないし」
「男からの人気は別にいらないよ、僕が強いからとかいう理由での人気だったら欲しいけど……」
「男女とも可愛いからって理由で先輩のファンになるだろ」
「修兵むかつく」

そんな風なら朽木隊長みたいに一般受けする純粋なかっこよさが欲しい。男じゃないから無理って解ってるけど…。

「僕が人気者になったら修兵と遊んであげないんだから」
「今も昔も人気者のくせに今さら何言ってんだ」
「僕そんなに人気無いよ」
「人気じゃないのにそう何度も何度も告られたりするかよ」
「うーん」

僕って人気者だったのか。第三者の目から見てそうなら本当にそうなんだろう。
人気者なのは悪い気はしないが、誰とも付き合う気は無いのに告白されるのは心苦しい。人気者故の悩みか。

「モテるってつらいね…」
「俺もそんな台詞言ってみてぇよ」

- 26 -

←前次→