れんあい


「聞いてよ乱菊さん!!」
「はいはい、聞いてるから大声出さないの」

僕は十番隊の乱菊さんのところへ訪ねていた。副隊長なのに仕事もせずにテレビを見ながらお菓子を食べていたのは衝撃だったけど、市丸隊長のことを思い出して無理矢理自分を納得させた。

「僕さ、今までずっと死神の男の人って強くてかっこいいって思ってたんだけど、実はそうじゃないってことに最近気付いちゃって……乱菊さん知ってた?」
「男なんて馬鹿ばっかりよ、今さら気付いたの?」

さすが乱菊さん。大人の女は言うことが違う。

「気付いちゃうような出来事でもあった?」
「……京楽おじさんが、僕が見ちゃいけないような小説書いてたから薄々気付いてはいたんだけどね、この前男の友達が、その、大人しか見ちゃいけない雑誌、持ってるとこ見ちゃって」
「成人向け雑誌?えっちなやつ?」
「……うん」

そう、はっきり言ってえっちな本だ。中身は見てないから知らないけど、きっとそうだ。

「そいつが、別の男友達とその本の貸し借りみたいなことしてて、そんなところ見たくなかったけど、こそこそしてたから気になって知っちゃって…」
「それで?男は汚らわしいって?」
「そ、そうまでは言わないけど……男の人ってみんなそういう、あの、えっちなの、好きなの?」
「でしょうね」

そこは否定してほしかった。だって僕は惣右介とか弓親とか更木隊長とかの強くてかっこよくて男らしい人たちに憧れて自分も男らしくなろうと頑張ってきたんだ。それなのに、男はみんなそうだなんて、そんな、惣右介たちまでそういう風だなんて、思いたくない。

「あんたはそういうの好きじゃないの?」
「…僕はそういうのよくわかんないよ」
「まぁ、子供だもんね。えっちぃことなんてわかんないわよね」
「なんか、ばかにしてる?」
「子供はそんなこと知らなくていいのよ。このまま純粋に生き抜いてちょうだい」

ぐりぐりと頭を撫でられる。そこまで子供扱いするのやめてほしいんだけどな。

「ていうかねぇ、そんなことに興味持つ前に、恋の1つでもしたことあるの?」
「…無いよ」
「はぁ?ほんとに?誰にも?無いの?」
「……と、思う。そんな感情、よくわかんないし…」
「子供ねー」
「しょーがないじゃん。ていうか、そんなことより、僕は強くてかっこいい死神になりたいの!恋とか、そんな、そんな感情無いし、いらなくない?」
「恋すると楽しいわよ〜。せっかく女に生まれたんだし、ここには手に余るくらい男がいるんだから、そんなこと言ってちゃもったいないわよ」

だからって、僕が死神になったのも、男探しじゃなくて強くなりたかっただけだし。僕には恋する価値なんかわかんないよ。

「そういえば鈴ってモテるんでしょ?言い寄ってくるやつくらいいるんじゃないの?」
「いるけど……断ってるよ。知らない人ばっかだし」
「ふーん?それって、女?男?」
「……女の子がほとんど」
「ほとんどってことは、少しは男もいるのね?男らしく生きてきたはずなのに」
「……」

男らしくかっこよく生きている、と自分では思っているのに、たまに物好きな男もいる。僕のことを男だと認識しながら、だ。この世の中は怖い。

「付き合っちゃおうとか思わないの?」
「思わないの」
「どうして?」
「…付き合う、って、よくわかんない。友達との付き合いと、何が違うの?」
「んー……その人だけ特別扱いする、とか。手繋ぎたいとか、抱き締めたいとか、キスしたいとか、思ったことないの?独り占めしたいとか、ずっと一緒にいたいーとか」
「…僕わがままだから、したいことは全部してるし、一人にだけ特別にどうこうしようとかは……」

抱き付きたいとかおもったらわりとすぐ行動しちゃってるし。好きなときに一緒に居たい人には会いに行くし。特別って何だ。

「鈴、勉強しましょう」
「え?何の?僕賢いからこれ以上の勉強なんか、」
「ばーか。恋愛の勉強に決まってるでしょ」

乱菊さんはおもむろにテレビのチャンネルを変えた。ちょうどドラマが始まったところみたいだ。

「説明してもわかんないなら、他の人見て学びなさい」
「学ぶ必要ある?」
「あるわよ。今後のためにも」
「今後って?」
「学んでみればわかるわよ。どんな分野だって、知識があって損することは無いんだから」
「…それはそうかもしれないけど」

納得いかなかったけれど、僕はそのまま数時間足止めされてしまって、延々と恋愛ドラマを見せられることになってしまった。
普段見ないものだから面白かったけど、なんだかドロドロしていて、恋愛ってすごくめんどくさそうだった。そんな苦労をしてまで男を手に入れて何が楽しいのか、と思ってしまった。
でもとりあえず、恋愛とは何か、みたいなのがなんとなく解った気がする。僕の認識が正しければ、だけどね。
だからこそ、彼氏なんかいらないって思ってしまった。

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