けってん


「二週間て長くない?そろそろ現世のコンビニ弁当も飽きてきちゃった」
「だからその辺の店に入って食べましょうって何回も言ったのに」
「だって食べてる間に虚出たら困るしー。僕これでも真面目だから、虚出たのに悠長に飯食うなんてことできないし」

明日で二週間だから、明日になればやっと帰れるんだ。二週間もの間、実戦を続けられたんだから多少の手応えはあったのだが、修兵や弓親たちに全く会えないのはちょっと寂しい。恋次がいるから孤独感は無いけど、満足できるわけではない。恋次には申し訳ないけど。

「そろそろさー、苦戦を強いられるほどの虚が出てきてくれてもよくない?もっと体を限界まで動かしたいよ」
「いやいや、あんまり強いのは俺がきついっす…」
「可愛い恋次のことは僕が守るから問題ないって」
「可愛いのは俺じゃなくて御門さん……あ、やべ」
「え?」

恋次ってば疲れてるのかな。何を口走ってくれた。

「恋次?」
「…いや、すみません。男の御門さんに可愛いとか失礼なこと言いました。やっぱどう見ても男に見えなくて…って、すみません!」
「素直なのは良いけど、思ったこと口に出さなきゃ気がすまないの?ばかなの?」
「す、すみません」

どう見ても男に見えない……か。僕もそろそろ男の振りするの、限界なのかな。もう女だって公言した方が楽なのかも。
ため息をついてみれば、丁度鳴り響く伝令神機。

「恋次!でかいの来た!行くよー!」
「ちょ…だから、瞬歩速すぎですって…!」

恋次の速度に合わせるなんてことするより、早く虚にたどり着きたくて全力で跳んだ。最終日間近で大物が出るとは、嬉しすぎる。これ倒したら始解くらいできるようになっちゃったりしないかなぁ、と下心を抱きつつ虚に刀を振り下ろすが、寸での所で弾かれた。やるじゃないか。

「恋次!死なない程度にフォローして!」
「は、はい!」

追い付いてきた恋次と共に、虚に向かう。虚の大きさに少しびびるが、この程度のやつ、更木隊長ほど怖くはないから大丈夫だ。あの人の怖さに比べれば、こんなの屁でもない。

「御門さん鬼道とか使えないんすか!?」
「使えるけど…使わない!」

十一番隊に入ったら鬼道より剣術で戦わなきゃならないだろうし、鬼道に頼ってなんかいられるか。僕がこの刀で勝ってみせるんだ。
とはいえ、本当に苦戦するほど強くて、なかなか斬り込めない。ただの1体の虚相手にこんなに手こずるなんて、僕って実は弱いんじゃないか。

「おわっ」

虚は僕をメインに攻撃してきていたくせに、たまに攻撃をしかけてくる恋次が鬱陶しくなったのか、恋次に向かって重い一撃を放っていた。
僕が鬼道を使わないなんて調子に乗ったばっかりに、恋次が怪我をするなんて、そんなのダメに決まってる。
僕は自慢の速さで回り込み、虚の腕を切り落とした。追い込まれないと本気を出せないなんて、僕って死神としてどうなんだ。

「大丈夫!?」
「あ、ありがとうございます!」

安心したのも束の間、虚は口から光線を発射してきた。その攻撃はずるいとか思いながら避けたけど、避けきれなかった。

「な、なんてデジャヴ……」
「御門さん!!」

恋次は大丈夫だったみたいだけど、僕の左腕は燃え尽きていた。涅隊長、これめちゃくちゃ丈夫に作ってくれたんじゃなかったの。普通に、痛いし熱い。

「ああもう僕の敗けだよ!!鬼道使うよ!恋次!僕のかっこいい姿見ててよ!!」

最初から鬼道に頼らなかった僕が悪いのは解っているが、逆ギレするしかないだろう。

「破道の六十二、百歩欄干!!」

僕がそれを唱えれば、複数の光の棒が虚に向かって飛んでいき、虚の動きを止めた。この程度できくのなら、最初からこうすればよかった。こいつのせいでまた涅隊長に頭を下げなきゃいけないんだ。ふざけんな。怒りをこめて、虚の仮面をぶった斬った。


「御門さん!早く戻って治療してもらいましょう!?」
「ごめん、止血だけ先にしてもらっていい?縛るだけでいいから……」
「はい!」

タオルを渡して左腕の根本をきつく縛ってもらった。

「ごめんね恋次、僕の意地で危険に晒して……」
「そんなことより、御門さんの左腕の方が大事っすよ!」

恋次は慌てて僕を抱き上げ、伝令神機で穿界門を開くように要請した。また僕は弱いせいで、後輩にこんな顔させてしまったのか。あの頃と今と、何も変わっていないじゃないか。剣術にこだわらず、勝つことにだけこだわるべきだった。

「ほんとに、ごめんね…」

剣術だけでは僕はダメだ。今度はきっと、得意な鬼道にもちゃんと頼ってうまくやるから、僕を見損なわないで欲しい。今度こそ、勝って笑顔にさせてみせるから。

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