いつまで


「御門先輩!!」
「ひゃっ!」

ノックも無しに、修兵は突然部屋に入ってきた。ビックリして心臓が飛び出すかと思ったくらいだから怒ろうと思って振り向いたのだが、それより先に修兵の顔が怒っていて、言葉が出なくなってしまった。

「し……修兵?」

修兵はずかずかと近付いてきて、僕の両肩を力強く掴んできた。更にびっくりして慌てたのに、その大きな手で今度は僕の左手を優しく握られて、はたまたびっくりさせられた。いい加減にしてもらわないと、口から心臓飛び出るぞ。

「……良かった」

修兵は大きくため息をついて、僕の前に座り込んだ。左腕無くなったって、恋次から修兵に伝わっちゃったのかな。

「ごめん、心配した?」
「当たり前だ」
「…ごめんね」

左腕が義手だって修兵も解ってるはずなのに、こんなに心配してくれるのか。やっぱり、あの時を思い出すから、気にしてしまうのかな。

「それと…現世のお土産、買い逃しちゃった」
「そんなもんより、ちゃんと五体満足で帰って来いよ」
「…ごめん」

修兵ってば、怒ってる。もうこれからは無理せず全力で頑張ろう。やられてなんかいられるものか。

「でも修兵が心配してくれて嬉しいよ!」
「喜んでんじゃねーよ、このばか」

そう言いながら修兵は顔を近付けてきて、咄嗟に目を瞑ったら額に鈍い衝撃をくらった。期待した僕が馬鹿だった。期待…って、何をだ?あれ?

「ひどいよ修兵!」
「ひでーのは先輩の方っすよ。この前一緒に弁当食ったあと、寝てる俺置いて帰っただろ!なんでだよ!」

そんなの、寝てる修兵にいけないことしちゃったからに決まってるだろ!なんて言えない!僕の馬鹿!!

「修兵がぐっすり眠ってたから、起こしたら悪いと思って」
「置いてく方が悪いっすよ。起きたら深夜だったんすよ?あれのせいで風邪引いたし生活リズム狂うしで散々だったんすよ!」
「え、ごめん…風邪治った?」
「二週間もありゃ治るに決まってんだろ、なめてんのか」
「えへ、治ってよかったね」

ごつん、とまた頭突きをくらった。たんこぶができそうだ。

「文句言おうと思って探してもどこにも居ねーし、聞けば恋次と二人で現世任務とか言うし、俺がどれだけ腹立てたか」
「えへ、現世楽しかったよ」

更に頭突きをくらって、いい加減痛みが増してきてちょっと泣きそうになった。修兵ひどくないか。この石頭。

「痛いんだけど!何が気に入らないの!」
「俺が苦労してんのに先輩がよそで楽しんでたのが気に入らなくて」
「何それ!僕が恋次と仲良くなったから妬いちゃった?二週間毎日一緒にご飯食べて一緒に寝泊まりするの楽しかったな〜」
「…でこ出せ。あと一回で許してやる」
「やっ、やだよもうっ、痛いよ」

修兵はまた頭突きをするべく、僕の頭を両手で固定する。まださっきまでの痛みが残ってるのにまた突かれたら確実に泣く。もうだめだ。

「…何泣いてんすか」
「まだ泣いてない!」
「まだ?目めっちゃうるうるしてんすけど」
「だ、だって、修兵が石頭だから…」

泣く寸前みたいな顔を間近で見られてしまい、恥ずかしくなる。この程度で泣きたくなんかないんだから、見ないでくれ。

「泣くほど痛め付ける気はなかったんすけど…」

修兵は申し訳なさそうに、僕の額を優しく撫でた。が、たんこぶのできた額にそれは逆効果で、触られただけでも痛くて泣いてしまった。最高に恥ずかしい。逃げたい。

「す、すんません…いや、悪気は無かった…ってこともないけど、だ、大丈夫っすか?」
「大丈夫だよ!ばか!修兵のばか!うぅぅ」
「あーごめんごめん」

子供をあやすみたいに抱き締められたのだが、胸板、というか鎖骨に額がクリティカルヒットして、更に泣くことになってしまった。左腕いじる時の方が確実に痛いはずなのに、馴れって怖い。馴れない額のこぶ程度で泣いてしまうだなんて。

「修兵のばか、許さないんだから…」
「いや、まぁ…お互い様ってことで、全部お互いに許しません?」
「…泣くほど苦しんでないくせに」
「そうだけど……ほら、先輩が泣くと俺も苦しいし。苦しくて胸が張り裂けそうだ。な?五分五分だろ?」
「嘘臭い」

嘘臭いけど、ちょっとでも本気で言ってくれてたらめちゃくちゃ嬉しい。顔さえ見れれば解るかもしれないけど、泣き顔を見せてまで見たくはない。諦めよう。

「でも、許す。修兵にめちゃくちゃ心配かけちゃったみたいだし?可愛い後輩になつかれて、僕はとっても幸せだよ」
「んな恥ずかしいことよく言えるぜ」
「事実だからね」

そう言えば修兵は僕を抱く力が強まり、頭も撫でてくれた。男だってことになってるはずなのに、いつまでこうしてくれるんだろう。いつまで僕は修兵の中で、子どものままでいられるんだろう。今の自分を客観的に考えてみると、それはそう長くないようにも思えてしまった。

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