まもりたい


今日は割りと真面目な任務の日だ。席官から新人までの様々な力量の死神十人で、虚討伐へ行けとのことだ。虚の数が多いらしく、危険があるかもしれないと言われたが、多少の危険なんか覚悟の上で死神になってるんだから問題ない。

「頑張ろうね」
「はい!」

偶然にも、雛森ちゃんと恋次もいて、あまり話したことはないけど、二人の同期のイヅルもいた。十人中三人も新人が居るのは不安だったけど、経験を積ませるのにはうってつけの機会なんだろう。

「イヅル、顔色悪いけど。大丈夫?」
「だ、大丈夫です…」
「…そんなに不安がらなくても、僕がついてるから。何かあったら僕が守るから、絶対大丈夫。こんなナリじゃ、説得力に欠けるかもしれないけどね」

へへっと笑ってイヅルの背中を軽く叩いてあげれば、眉間の皺が少し減った。それでもまだ不安げだし、ほんとに大丈夫かこの子。

「恋次、ちょっと」

イヅルや雛森ちゃんには聞こえないよう、ちょっと距離を置いて恋次を呼んだ。

「この前みたいに、恋次を危険に晒したりしないって約束するよ。僕みたいなのに守られるの嫌かもしれないけど…守るから。今度は、自分にできる手は全部使って頑張るから、よろしく」
「……虚相手にするんだから、危険に会うのは承知の上っすよ。俺も今度こそは、御門さんの役に立つくらいの働きはするつもりっす」

男らしいって、こういうことを言うのかな?なんとも頼もしい。

「ふふ、期待してるよ」

そう言ったそばから、誰かの叫び声と虚の呻き声が響き渡った。今回の責任者である席官が、刀を抜く暇もなく体を引き裂かれてしまっていた。虚の霊圧に、全然気付くことができなかった。
もう一人の席官が虚と対峙するのだが、更に数体の虚が寄ってきて皆が慌てて刀を抜いた。

「戦えぇぇ!!!」

席官一人と新人含めたただの死神八人に対して、現れた虚は六体もいた。最有力の席官が真っ先にやられていたせいで、どう考えてもこちらの分が悪かった。 それを皆が感じていたのか、空気が重い。ふざけるな、こんなところで死ねるか。

「怯むな!こっちのが数は多いだろ!!」

皆をやる気にさせるためにも、僕が先陣切って動くしかない。ひとまず動きが鈍そうな虚に瞬歩で近付き、攻撃をされる前に仮面部分に刀を突き立てた。うまく仮面は割れて、その虚は消滅した。
僕の姿を見て皆も負けじと動きだし、時間をかけてでも虚を一体ずつ倒していった。
だが、こちらの犠牲が無いわけでもなく、戦う中で既に四名が息絶えており、三名は負傷で戦えるような体ではなくなっていた。


「恋次は元気そうじゃん…」
「当たり前じゃないっすか。役に立つって宣言したばっかっすよ」

残りはただの死神三人に対し、虚は二体。だがその二体が強く、大きく、絶望感を与えてくる。

「破道の六十三、雷哮砲!!」

反省を生かし、困ってすぐに鬼道を放つ。爆発音と断末魔が響き、勝ったと思った。これで無事に帰れると、そう思った。だが煙の中から虚が飛び出てきて、仲間に襲い掛かった。全員油断していたせいで、その人はぶっ飛ばされて、そこらじゅうに叩き付けられてしまった。

「きいてない…」

二体とも雷哮砲をくらってはいたのだが、超速再生により元通りになってしまっていた。これ以上の鬼道なんて、普段使うときが無いから覚えていない。妥協せずに覚えられるだけ覚えておくくらいすればよかった。なんて反省する暇なんかない。

「御門さん、一体ずつ、確実に仕留めましょう」
「……うん!」

こんな新人に支えられるなんて、僕もまだまだだ。心を落ち着かせ、僕らは虚に向かって走り出した。こんなただの虚に勝てなくて更木隊長に認めてもらえるわけがない。僕はこのくらいのやつ、倒さなくちゃならないんだ。

「恋次!危ない!」

僕が囮になって虚を引き付け、恋次が隙をついて虚の仮面をぶち割った。一体倒したことで気が緩んだのがいけないのだろう。もう一体の虚がすかさず恋次を殴り飛ばした。もうあとは、僕一人しか残されていなかった。

「みんな…」

僕が戦わなきゃ、まだ生きてる人たちを助けることもできずに終わってしまう。僕が守るから大丈夫だなんて大口叩いたくせに、何も守れずに終わってしまう。そんなことで、いいわけがないだろう。
僕はもう、誰にも悲しむ顔をさせたくない。生きて帰って、みんなの笑った顔が見たいんだ。

「あとはお前しかいないんだぞ!僕が死んだら浅打のまま終了だけどいいのかよ!!」

やけくそで刀に向かって叫んだら、頭に響くような耳鳴りがした。そして耳鳴りは声となり言葉となり、僕に名前を呼べと、命令してきた。

「恋次!!ちゃんと見ててよ!!」

緊張して、声が震えた。けど視界の端で幽かに手を挙げる恋次の姿が見えて、ひと度安心することができた。
僕はやる。今までの戦闘馬鹿な僕ではなく、誰かを守るために戦う僕に変わるために。


「蒼褪めろ!龍旋丸!!」

不安いっぱいだったけど叫んでみれば、刀身が変化してどす黒い色をした龍が現れ、虚に体を擦り付けながら絡み付いた。すると龍が触れたところが焼けただれ、虚はなすすべもなく断末魔をあげながら消滅していった。
終わったと思い一息つくと共に、龍は姿を消した。


「そうだ、連絡…」

負傷者を僕だけで瀞霊廷まで運ぶのは無理だから、伝令神機で惣右介に、四番隊に救護に来てもらうように連絡した。

「雛森ちゃん!イヅル!怪我、平気?ごめんね、守れなくて…」
「全然大丈夫です!私こそ力になれなくてすみません」
「ううん、生きててくれてよかった。二人ともね。すぐに四番隊の人が来てくれるから、もうちょっと辛抱できる?」
「はい!」

雛森ちゃんは泣きそうなのを無理している気がして、優しく頭を撫でてあげた。一方、イヅルが全然喋らなくてまた不安にさせられた。

「イヅルも、怪我させちゃってごめんね」
「いえ…怪我なんて、僕自身の責任です」
「でも、ごめん。守るって言ったのに。怪我の治療もできればいいんだけど…」
「…僕は大丈夫です。それより、阿散井くんをお願いします」
「…うん」

イヅルの頭も撫でてから、僕は恋次のもとへと駆け付けた。殴られたときに骨でもやられたのか、苦痛の表情だった。

「恋次、ごめんね……でも、一緒に頑張ってくれてありがとう」
「御門さん、すごいじゃないっすか…。始解、できたんすね」
「今できるようになったの。恋次のおかげで」
「……俺の?」
「そー。恋次に、死んで欲しくなかったから。…まぁ、死んで欲しくなかったのは、他のみんなも同じだけど…」

近付かなくてももう死んだことが解るような人たちもいて、心が苦しくなる。もっと早く始解できていれば、全員助けることもできたかもしれないのに。

「恋次が生きててよかった。ありがとう」
「…俺の方こそ、助けてくれてありがとうございます」
「いえいえ」

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