ざらき


目が覚めるとそこは見慣れた部屋で、窓際には月を眺めながらぼーっとしている京楽おじさんがいた。
きっと惣右介が僕をおじさんに引き渡したんだろう。
起きたことに気が付かれたら、怒られるかもしれない。もう一度寝てしまおうかと思ったけど、充分なほどに寝てしまったためこれ以上は寝られる気がしなかった。

「…おじさん」
「ん?やっと起きたのかい」
「逃げ出してごめんなさい」

ちゃんと起き上がってから、深く頭を下げた。好き勝手に行動しちゃったから、このくらいはするべきだろう。

「心配したよ」
「…ごめんなさい」
「泣き疲れてる状態で藍染隊長に抱き抱えられてきたときはもう心臓が止まるかと思ったよ」

京楽おじさんは僕の頭を優しく撫でてくれる。顔をあげてみれば、おじさんは少しも怒ったような顔はしていなかった。もっと怒って叱られると思ったのに、申し訳ない気持ちでいっぱいになってしまう。

「ごめんなさい、でも、すごく楽しかった。みんな強そうでかっこよかった!十一番隊の隊長さん、名前何ていうの?」
「更木剣八。彼はすごく強いよ」
「僕、あの人みたいに強い死神になりたい!」

興奮ぎみに言ってみれば、おじさんはそれに反対なのか戸惑った表情をみせた。

「死神はそんなに簡単になれるもんじゃあないよ?まだ早いよ」
「まだって、いつになったらいいの?僕は更木剣八の強くてかっこいいところをもっと見たいだけだから、死神になるの諦めないよ」
「……そんなに彼がかっこよかったかい?」
「うん!それに怖かった!すごかった!感動した!あの人たちにまた会えて僕も一緒に戦えるなら、学校だってがんばるよ!だから、いいでしょ?だめ?」

おじさんの嫌がることなんかしたくないけど、僕だってせっかく見つけた道を諦めたくなんかない。

「霊術院には鈴ちゃんより大きい人たちばかりだから、力だって強い人が多いし、どうしても埋まらない力の差もあると思うんだ」
「それでも、七緒ちゃんは僕より小さい頃から死神やってたんでしょ?だったら僕だってできるよ」
「七緒ちゃんはすごく賢かったからね」
「……僕だって、勉強するもん。今は何もできないけど、何もできないから学校行っていろいろ覚えるんでしょ?」

勉強なんかしたくないけど、強くて賢くてかっこいい死神になるためならやるしかない。
僕はもう、何もせず退屈に過ごす毎日は飽きてしまった。

「鈴ちゃんは…赤と青、どっちが好き?」
「赤は女の子の色だから青のが好き」
「それでも霊術院に入ったら、君は女の子だから赤色を着ないといけないよ」
「…性別なんかどうでもいいのに。別にいいよ、学校行かせてくれるなら赤でも我慢するよ」

僕の性別が何だろうが、死神になるのに関係ないだろう。女でも隊長とか副隊長とかいるって聞いたし、僕だって夢じゃない。

「一つだけ約束が守れるなら、霊術院に通えるように手配してあげる」
「ほんと!?何!守るよ!」
「院生の間は男の子の振りをして、死神になれるまで誰にも女だってばれないこと」
「…別にいいけど、なんで?」
「鈴ちゃんみたいに小さくて可愛い女の子を一人で霊術院に通わせるのが不安だからねぇ」
「ふーん…それでおじさんが心配しなくて済むなら、それでいいよ」

それに青いの着れるってことだし。それに、男のふりしてる方がみんな手加減してくれなさそうだから、強くなるのの近道になるかもしれない。

「本当はもっと女の子らしい可愛い女の子に育てたかったんだけど、何を間違えたのかなぁ…」
「京楽おじさんと浮竹おじさんがかっこいいんだから僕もかっこよくなりたいに決まってるじゃん」
「そんな風に思ってくれてたの?嬉しいねぇ」
「でも京楽おじさんは七緒ちゃんに弱かったし今日はあんまりかっこよくなかったよ」
「……」

真っ向から反対されることもなく僕の意見を尊重してくれて、おじさんの優しさには感謝しないといけないな。
なにがなんでも死神になってみせないと、おじさんたちには笑われちゃうし、隊長さんたちには忘れられてしまうだろう。そうならないように、本気でがんばろう。

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