せいちょう


始解ができるようになったことと席官になったこと、弓親にやっと報告しに行った。弓親は僕の面倒をずっと見てくれていただけあって、すごく喜んでくれた。

「でも、なんで五番隊のままなんだい?十一番隊に来れば良かったのに」
「…弓親言ったよね。十一番隊に入るなら、直接攻撃系の斬魄刀じゃないとダメだって」
「……うん」
「だからね、入れなかったの。でも、さっき更木隊長に報告しに行ったら、褒めてもらえたんだよ。成長したって、認めてもらえたの!」

十一番隊に入れなくても、僕は憧れの人に認めてもらえたんだ。それだけでも喜ばしいことだし、本当に嬉しい。多少は悔しさもあるけどね。

「なんか、責任感じちゃうな。指導したのは僕だし」

弓親は申し訳なさそうに僕を優しく抱き締めた。

「君の斬魄刀が鬼道系だったからって、落胆しない方がいいよ。それは君に合う能力として開花したんだから、それをどう使いこなすかの方が大事だ」
「…うん」
「偉そうに言ってごめんね」

弓親らしくないことを言いながら、僕を解放してくれる。なんで弓親は、そんな顔するんだ。

「心配しなくても、十一番隊に入れなかったこと弓親のせいにするつもりないし、始解できて席官になれたこと、弓親のおかげだと思ってるし、感謝してるよ」
「御門…」
「だから、また特訓してくれない?僕、もっと強くなりたいんだ」

お願いしてみれば、弓親は安心したように笑ってくれた。

「もちろんだよ」
「やった!」
「それだけじゃなく、美容の方も気を付けてよ?席官になって忙しいのはわかるけど、睡眠くらいきちんととってくれないと。クマできてるよ」
「お仕事慣れてきたし、そろそろゆっくり寝るよ」

なんて言ったそばからあくびが出る。あくび中の間抜けな顔を見せるわけにはいかず、両手で口許を覆った。

「昼寝でもしていくかい?」
「膝貸してくれる?」
「……まぁ、いいか。お祝いってことで、そのくらいしてあげるよ」
「ありがとー」

お言葉に甘えて弓親に膝枕してもらったのだが、さすが男というか、固くて枕に向いていない。

「晩御飯までに起こして……」
「まだ昼の2時だけど。何時間僕を拘束するつもり?」
「おやすみー」
「おい」

枕がいまいちだったけど弓親にそんな文句は言えないし、それに目を閉じたらすぐに睡魔が襲ってきてくれたから、ありがたく寝ることにした。

……
……

人に頭を触られている気がした。すごく優しく、大事そうに撫でてくれるから、気持ちよくてまた寝そうになる。だがそのうち頬を撫でられたりつままれたりされて、だんだんと意識がはっきりしてきた。そしたら今度は唇をなぞられたり押さえらたりする感覚があって、ちょっとだけ嫌で、触っているそれに噛み付いて目を開けた。
そこにいるはずなのは弓親だったのに、弓親じゃなかった。僕に膝枕してくれているのも、僕に噛まれているこの指も、一角さんだった。

「い……いつから起きてやがった」
「さっき」

喋ったら指を外されてしまった。

「寝てる子にイタズラしないでよ。弓親に言うよ?ていうか、弓親どこ…」
「弓親なら便所だ」

弓親と便所という単語を並べて欲しくなかった。弓親だって用を足すのはわかっているけど、なんか知りたくなかった。

「だからって、僕のこと撫で回していいってわけじゃないでしょ」
「…悪かったな」
「僕の寝顔がそんなに魅力的だった?」
「いや……同じガキでも、うちの副隊長とは全然ちげぇと思ってな。つい。興味本意で」
「僕もうあそこまでガキじゃないし、ちゃんとおっぱいあるし」
「どう見てもつるぺたじゃねぇか」

つるぺたに見えるのは仰向けだからに決まっているのに、一角さんは鼻で笑いながら、僕の胸に手を置いて、揉んだ。「は?」と不思議そうな声をあげながら揉んでくるから、急いで一角さんの手を叩き払って、体を起こした。

「わ…悪い」
「一角さんはそういう人じゃないって思ってたのに!」
「おめーが煽ったんだろ!?」
「一角さんが勝手に触ったんじゃん!ばか!」

触られた胸が熱くて、顔も熱くなる。僕の今一番女らしい部分を知られてしまって、恥ずかしさやら何やらで泣きそうになった。

「でもお前、成長したいとか言ってたよな。よかったじゃねぇか、ちゃんと成長してて」
「こんなものいらない!!僕が欲しいのは身長だよ!!」
「牛乳でも飲んどけよ」
「そんなの昔から毎日飲んでるよ!!」

それが身長ではなく乳を育てているとでもいうのか?いやまさか。そんな、僕が毎日続けていたことは逆効果だったというのか。

「もうやだ…こうなったら、涅隊長に性転換改造してもらって、大人の男にしてもらおうか……」
「気持ち悪いこと言ってんなよ。今のままで良いだろ」
「だって!僕可愛いから!このままだと一角さんみたいな男に何されるかわかんないよ!?僕はかっこよくて強い体が欲しいの!」
「だったら、涅隊長なんかに頼らねぇで自分で努力しろよ。他人の力で強くしてもらって嬉しいか?そんなのお前の実力とは言えねぇだろ」

確かに一角さんの言う通りだ。ずるして人に強くしてもらっても、満足できない気がする。更木隊長だって、ずるせず自力で更木剣八になったんだ。だったら僕も、自力で頑張らないと。

「それにかっこよくなくたって、可愛いんだからいいじゃねぇか」
「……やっぱり一角さん、僕のことそういう目で見てたんだ」
「誰が見たってそう言うだろ」
「僕はかっこよくなりたいって言ってんじゃん!!かっこよくなりたい人の気持ちなんかかっこいい一角さんにはわかんないよ!!」
「は?お前……おい!」

ムカついたから僕は部屋を飛び出した。一角さんなんか嫌いだ。かっこいいくせにおっぱい触るし可愛いとか言ってくるし、最低だ。絶対許さない。今度弓親に言って叱ってもらわないと。

- 42 -

←前次→