えがお


例の瀞霊廷通信の発売日になった。
結局、更木隊長とは一緒に撮ってもらえた。最初はめんどくさがっていたけど、ここで宣伝すれば隊員が増えるかもとか適当なことを言ってみたらオーケーを貰えた。二人でではなく、弓親とか一角さんとかやちるちゃんも一緒にだけど。それでも僕の要望を通して貰えたのは嬉しい。
他にも惣右介とかおじさんとか乱菊さんとも一緒に撮ってもらった。そのせいで修兵が乱菊さんと知り合いになってしまって、なんだか複雑な気持ちだ。


「あ!御門くん!」
「ん?」

聞き慣れない声に呼ばれてそちらを向いてみれば、知らない女の子が二人、僕に駆け寄ってきた。

「御門くんですよね?瀞霊廷通信みました!」
「あ、そうなの?ありがとー」

にこっとすればキャーキャー言ってもらえる。アイドルにでもなった気分だ。

「これ、差し入れに!さっき買ったばっかなのでぜひ食べてください!」
「お菓子?」
「1日数量限定のプリンです!美味しいんですよ!」
「でも、君が食べたくて買ったんでしょう?僕が貰っちゃうのはもったいないよ」
「甘いもの、お嫌いですか?」

甘いものも美味しいものも大好きだけど、数量限定とか苦労して手にいれたものを僕が貰ってしまうのは申し訳ない。だからってあんまり拒否してもそれも可哀想だし。

「僕はものよりも、君たちの可愛い笑顔が見られればそれで満足だよ」

ただの誤魔化しではあるが、なるべく爽やかな笑顔でそう言えば、二人とも頬を染めて恥ずかしそうに笑ってくれた。

「それじゃ、まだお仕事残ってるから、またね!」
「はい!ぜひまたお話ししてください!」
「うん!」

二人に手を振って逃げるように立ち去った。瀞霊廷通信の影響の凄さを身をもって知らされてしまった。あんな露骨にキャーキャー言ってもらえるなんて思ってなかった。

「鈴ちゃん」

廊下の角を曲がったら前方に人がいて、呼び止められた。

「あ、市丸隊長久しぶり。僕席官に、」
「知っとるよ」

市丸隊長は瀞霊廷通信の僕のページを開いて見せつけてきた。

「他の隊長さんと仲良うしとるんやなぁ?ほいで、なんでボクんとこ来ぉへんかったん?ボクと鈴ちゃん仲良しやろ?一緒に写真撮れば二人で相乗効果で人気者になれたんに」
「だって市丸隊長のこと聞かれなかったし、仲良し順で考えたら市丸隊長五本の指に入らないし」
「ボクは鈴ちゃんが一番なんやけど」
「知らないんですけど」

市丸隊長は僕の肩に手を添えて、壁に僕を押し付けた。

「人に見られたら困るんだけど!」
「鈴ちゃんも、ボクに可愛い笑顔見せてくれへん?」
「……さっきの見てたんですか?」
「ようあんな台詞言えるなぁ」
「…京楽おじさんだったらどう言うかなぁって思ったらでてきた」

いつもいつも市丸隊長は何かあるとボクはボクは?って主張してくる。めんどくさい。

「鈴ちゃん、なんで三番隊に来てくれへんかったん?」
「……あ」

そういえば市丸隊長からの誘い断って五番隊選んだんだった。席官になったことも知らないわけなかったか。

「寂しいやん」
「…寂しいから僕を誘っただけで、僕の力が必要だったわけじゃないんでしょ?」
「ボクには君が必要や」
「そうは言うけど、今までずっと違う隊でもやってこれましたよね。僕は五番隊で頑張るんですー」
「ホンマは十一番隊に行きたかったの我慢しとるやろ」
「うっさい!僕の力が十一番隊に向いてなかったんだからしょうがないでしょ!だから僕は、僕に一番合ってるところで頑張るんです」

あんなに強くてかっこいい惣右介の下で働いていれば、自分だって同じように強くてかっこよくなれるかもしれない。更木隊長のように見た目に力強さを出すのは恐らく無理だろうし、僕の目指すべきは更木隊長ではなく、惣右介だ。だから僕は五番隊にいるべきなんだ。

「何にせよ、もう五番隊から動く気無いから諦めて」
「……」
「聞いてます?」
「…うん。退いたら鈴ちゃん行ってまうやろ?」
「まだ僕と一緒に居たいんですか?」
「うん」
「……じゃあ、ご飯でも行きます?」
「うん!」

市丸隊長はすぐ拗ねるから、結局僕が折れてしまう。今日も仕事片付けてから来てるのかさぼって来てるのかは知らないけど、こんなに遊び回ってていいのかな。

「ご飯食べたらお仕事戻ってくださいよ」
「……」
「返事!」
「…はーい」

- 44 -

←前次→