しょうぶ


「ねー修兵」
「何すか」
「落ち着かないよ」

席官になって記事にされてからというもの、僕を認知する人が増えたらしく、今まで以上に視線を感じるようになった。周りを見渡してしまえばそのたびに誰かと目が合い、にこっと愛想を振り撒かなければならない。それがちょっとだけ、疲れる。

「瀞霊廷通信って、こんなにすごいものだったんだね…」
「それもあるけど、先輩がすごいからってのもあるんじゃないすか?見た目の地味なただの席官だったら、こんなに注目を集めたりしませんて」
「まぁ僕かっこいいししょうがないよね」
「はいはい」
「流さないでよ」

こうしてご飯を食べているだけでも、周りが気になってしょうがない。みんなそんなにあれを読んでいるのか。

「でも先輩のおかげで今月号の売上が伸びたんで、また協力してもらって良いっすか?」
「……まだ何かするの?」
「市丸隊長に取材の交渉に行ったら、先輩と一緒じゃなきゃ嫌だって駄々こねられて…」
「大人げないな…」
「そういう訳だから、先輩に協力してもらえると助かるんですよ」
「しょうがないな……」

可愛い修兵が困ってるんだし、助けてあげるしかないでしょ。しかもそれが僕の駄目な上司のせいで、だ。

「ありがとうございます。今度旨いもん奢ります」
「別にいいよ奢ってくれなくても。一緒に食べてくれるだけで嬉しいし」
「でも……」
「それよりもさ、今度僕と手合わせしてよ。僕も修兵も席官になったんだし、だめ?」
「……勝てっこ無いっすよ」
「でもさ、修兵の方が、死神になってから席官になるまでの年数少なかったんだよ?これって僕より修兵の方が才能あるってことじゃない?」

言いたくなかったけど褒めてあげたってのに、修兵は浮かない顔だ。僕とやりあうのに何が不満なんだ。

「嫌?」
「…嫌じゃ、ないっすけど」
「けど?」
「……もういいっす。やりましょう。俺が勝っても泣き言言わないでくださいよ」

修兵は自棄なのか、適当な返事をしてきた。まぁ、やるって言ってくれてるんだからいいんだけどさ。

「修兵が勝ったら何だってしてあげるよ」
「またそれっすか」
「ん?」
「…覚えてないんすか。学生の頃の、あの日っすよ。生きて帰ったら何でも言うこと聞いてやるし聞いてくれって言ったの先輩っすよ」
「修兵こそまだ覚えてたの?何も言ってこないからてっきり忘れてたのかと思った」
「忘れるわけ無いじゃないすか…。助けて貰った身で言うこと聞けなんて図々しいこと、言えなかっただけです」

やっぱり修兵、今でもあの日のこと気にしてるんだ。

「でもお互い覚えてた訳だし、今からでも何だって修兵の言うこと聞いてあげるよ?その代わり、僕も修兵に何かしてもらうけどね!」
「……、思い付いたら言います」
「おっけー。あと、さっきの話に戻るけど、手合わせして負けた方が、更にもう一個言うこと聞くってことで、どう?」
「いいっすよ」

もし僕が勝ったら、悔しがらせるために僕が女だってことばらしてみようかな。今まで騙してきたことにはなってしまってるし、タイミング悪いかな?
でも負けた時にばらすのは、女だってこと言い訳に使ったみたいに思われそうだから、負けたら言わないでおこう。なんてこと考えていたら、僕が本当のことを言えるのはいつになるのやら。
いっそ今言ってしまいたいけど、そのせいで修兵が手加減してきたら意味無いし、タイミングって難しいなぁ。

「日程だけど……しばらく忙しそうだし、もうちょっと時間できたら決めよっか」

とりあえず負けたくないし、しばらく弓親に相手してもらって強化特訓してもらおうかな。

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