いつまでも


「お茶、いれてきたよ!」
「ありがとう……。でも、まださっきの分が飲み終わってないけど。どうしたんだい?さっきから」

ここ最近忙しいらしく、惣右介はいつも執務室にこもりきりだった。なんとなく表情も疲れていたし、気になったから休憩をとらせるために定期的にお茶やらお菓子やらを差し入れに持ってきていたのだが、さすがに惣右介につっこまれてしまった。

「…だって、席官じゃ隊長業務に手出せないから、これくらいしかすることないもん」
「君はそこに居てくれるだけで助かるよ」
「な、何もしない方が助かると?」
「そういうことじゃなくて」
「……、僕が癒し系だから、ここに存在することに意味がある?」
「そうだよ」

あっさりと認められてしまって、反応に困る。惣右介はいつもそういう風だけど、それが本心なのか僕を浮かれさせるためのものなのかが解らない。

「だとしても、何もできないのって面白くないよ。肩揉んでていい?」
「…それじゃあ、お願いしようかな」
「うん!」

僕は惣右介の後ろに回り込み、肩を揉んだ。やはり忙しいだけあって、大分こっていた。もうちょっと、僕が力になれることがあればいいんだけど。そしたら惣右介だって楽できるし、僕に構ってくれるよね。

「僕もう席官になってできることも増えたし、前より強くなったんだよ?」
「そうだね」
「…だから、僕にできることあったらいつでも何でも言ってね」

仕事に追われる惣右介よりも、いつも余裕でにこにこしている惣右介の方が好きなんだから。そのためだったら、僕が忙しくなるくらいどうってことない。
惣右介は僕の手をそっと握って肩から外させ、椅子を回転させて僕の方に振り向いた。

「さっきも言っただろう?」

握った手を引っ張られ、惣右介の腕の中に収まることになってしまった。最近ずっと忙しくてこんなにくっつくことがなかったから、久々でちょっと緊張した。

「鈴は居てくれるだけで良いんだ」
「…だけ、ではないみたいだけど」

惣右介の体に腕を回せば、苦しいくらいにきつく抱き締められた。息をすれば惣右介のにおいでいっぱいで安心する。

「居ればいいっていうか……惣右介は僕が居ないとやってられない、って感じ?」
「そうかもね」
「惣右介は大人なのに甘えん坊だ。これで許されるなら、僕だっていつまでも甘えん坊でいたって問題ないよね?」
「人前じゃなければね。こんなとこ、京楽隊長に見られでもしたら許されることじゃないよ」
「おじさん優しいから悪いことしなければ怒ったりしないよ?」
「…京楽隊長は君のことが大事だから、京楽隊長にとってはこれは悪いことだよ」
「惣右介が甘えることは悪いことなの?この程度でおじさんが文句言うなら僕が逆に文句言うよ」

ぎゅーっとするくらい、おじさんとだってするし、仲良い人たちとなら問題なくしちゃうけど、悪いことなのか?仲良くしてるだけなのに、何がいけないんだ。惣右介とだって、惣右介が休息をとるためのお手伝いだから、むしろ良いことなのに。

「年頃の女の子が、恋人でもない男に抱き締められてるなんて知ったら、普通は良い気はしないさ」
「……そうなの?」
「きっとね」
「惣右介はそれを解ってて僕にこんなことしてるの?惣右介ってば悪い人だね」
「解ってても、鈴が嫌がらないからやめられないんだ」
「…嫌じゃないんだから、嫌がったりできないよ」

年頃の女の子、なんて言われたくなかった。女の子扱いされるのは好きじゃない。女の子だから恋人以外の男の人と抱き合っちゃだめなんて、おかしいよ。だったらまだ子供扱いされて、甘やかされて抱き締めてもらってる方が幸せだ。女の子扱いされるくらいなら、僕はずっと子供のままでいたいよ。僕はまだ、みんなに甘えて生きていたい。

「惣右介は大人だから……僕のこと、ずっと子供扱いしていてよ。クソガキだと思っててくれていいから、惣右介の中ではずっと子供でいさせてよ」
「……君がそれを望むなら」

そしたら僕は、ただ大人に甘えているだけの子供でいられるし、惣右介だって甘えてくる子供を甘やかしているだけの大人でいられるんだ。性別なんて気にするからこの世は生きにくいんだ。僕が子供であり続ける限り、僕と惣右介はずっと一緒に、お互いに甘えていられるんだ。

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