ふくざつ


「あ!御門くんだ!」
「ほんとだ!かわいーっ!」

惣右介に頼まれた書類を運んでいたらきゃーきゃー騒ぐ声が聞こえてきて、女の子が5人も僕に近寄ってきた。なんだかすごくいい匂いの御姉様方に囲まれてしまい、慌ててしまう。

「今お仕事中?」
「そ、そうです」
「あはは、緊張してるの?かわいーっ!」
「えへへ……」

戸惑いながらも相手をして、ちやほやされていい気分だ。頭は撫でてもらえるし、お菓子のプレゼントも貰えて、ちょっと申し訳ない。

「あの、僕まだお仕事あるので、すみません」
「えーっ。じゃあまた話そうね!」
「あの瀞霊廷通信の投票、御門くんにいれたげるからね」
「……え?なんです、それ」
「人気投票だよ。上位になったら写真集とかカレンダーとか、毎年やってる企画なのに知らないの?」

知らないよ。ていうか、今まで写真集の出てた市丸隊長や乱菊さんは人気上位だってことか。

「上位の人には豪華プレゼントもあるみたいだし、応援してるからね!」
「あ、ありがとう…」
「じゃーねー!」

豪華プレゼントは気になるけど、市丸隊長みたいな人気者を越えられるほどの人気が僕にあるわけもないし、期待はできないな。応援してくれるのも嬉しいけど、みんな僕のこと男だと思ってるからこそだし、申し訳ない。

「はー……」

本当のことを言えるのはいつになるのやら。そんなことを考えながら十番隊の執務室にたどり着いた。ノックをすればどうぞと返事があったから、開けた。


「乱菊さーん、貴方の嫌いな書類のお仕事持ってきましたよー……お?」
「いらっしゃーい」

乱菊さんの向かいには珍しく、修兵が座っていた。僕の知らない時に乱菊さんに会うほど仲良くなっていたのか。

「修兵どうしたの?」
「仕事持ってきたらサボりに誘われたんすよ」
「人聞き悪いわねー。サボりじゃなくて休憩でしょ」

机の上を見れば、手のつけていないであろう書類の山と、少量のお菓子の入ったお皿が乗っていた。二人で話ながら食べてたのかな。

「乱菊さん、お仕事どんどんたまってくけどいいの?」
「いーの。もうすぐ隊長帰ってくるし。あんたも一緒にサボってく?」
「隊長帰ってくるんでしょ?僕までサボってるって勘違いされたくないんで遠慮しときます」

持ってきた書類を机に置けば、僕の手元に残っている箱に視線が集まった。

「何その可愛い箱」
「あー、さっき女の子たちに貰って」
「ふーん。モテるわねー」

好きでもない子にモテても素直に喜べないんだけどね。僕はお返ししてあげることもできるわけじゃないし。

「それでさー、人気投票?で僕に投票するねって言ってくれたんだけど、瀞霊廷通信ってそんなことまでしてんの?」
「えぇ。それにもう投票始まってますよ。先輩にも乱菊さんにも結構な票数が……って、これは言ったらだめなやつだ」
「僕そんな人気あるの!?」
「そりゃあ、まぁ。実績もあるし、この前の特集で知名度上がったし、人気も出てきたみたいだし」

へえぇ、すごい。死神なんて大量にいるなかで人気が出るなんて。良い順位だったらおじさんたちに自慢して美味しいものご馳走してもらおう。

「修兵は私に投票してくれるでしょ?」
「あぁ、もう投票しましたよ」
「へぇ!嬉しいー」

既に投票済みで、しかも乱菊さんて。やっぱり僕より乱菊さんの方が好きなのか。だったら僕に手出してないで始めから乱菊さん攻めればいいのに。修兵のばか。

「じゃあ僕は更木隊長に投票しとこ」
「そんなに好きなの?」
「憧れですからね。それに写真集とかカレンダー出るなら欲しいし!」
「そこまで上位には食い込めないと思うけどね〜」
「…それでもいいもん。僕が更木隊長に投票したっていう事実が大事なの!」

僕が上位になったらわがまま言って更木隊長カレンダー作らせてやる。修兵に写真撮りに行かせてやる。怖がれ馬鹿。

「じゃあ僕もう行くね」
「えー、もうー?」
「藍染隊長待ってるし。それに、僕ってばお邪魔虫かもしれないし。それじゃ」

乱菊さんと仲良くしたいならすればいいさ。僕に邪魔する権限なんて無いし、修兵が僕より乱菊さんがいいっていうなら、どうしようもないし。
執務室を出た途端に気が緩んで笑顔が保てなくなってしまった。笑うと楽しいってずっと思ってたけど、笑っても楽しくない時があるなんて思わなかった。修兵と同じ空間にいて、こんなにも楽しくない気分になるなんて、思わなかった。

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