かくご


「弓親、相談なんだけど」

おじさんに心配をかけるのは嫌だったから、友達目線で相談のできる弓親のところを訪ねた。他の死神たちがいてお話し中みたいだったけど、僕を優先して来てくれて、部屋に招いてくれた。

「元気無いね」
「…最近、楽しくなくて」
「笑うと楽しいとか馬鹿みたいなこと言ってた子が何言ってるんだい?」
「僕が馬鹿だった。だからちゃんと聞いてよ」

こんなこと誰にも言いたくないけど、一人で考えても解らないんだから人生の先輩に相談するしかなかった。

「僕さ、学生の頃から仲の良い子がいるんだけど、今でも僕のことを男だって思ったままなんだ」
「…へぇ」
「だから、いい加減本当のこと言いたいんだけど、言ったら怒るんじゃないかなって思って。弓親でも怒ったくらいだし…」
「そりゃあ怒るんじゃない?ずっと騙してきたわけだし」

やっぱりそうなんだ。きっかけはおじさんのせいではあるけど、死神になるなんてワガママを通した代償でもあるし、自分を責めるしかない。怒られるの覚悟で本当のこと言えばいいのかな。

「でもさ、長年仲良くしてきて、そのくらいのこと気付かないの?そいつ、本当に御門のこと見てるの?」
「え?」
「昔こそガキだったからわかんないかもしれないけど、最近は僕のおかげで御門は充分美しいし可愛いし、これ見てて女だって思わないのもおかしいだろ」

仲良くしてきたと思っていたのに、修兵は僕のこと見ててくれなかったってことなの?それってすごく、寂しいよ。

「…でも、僕が女の子にモテてる場面とかいっぱい見てきたし、だからだと思うんだけど」
「ふーん。それで、なんで女だってこと、今さら言おうと思ったの?」
「…僕が、可愛いから」
「事実だけどわざわざ言われると」
「これ以上成長して更に可愛くなったら、言う前にばれちゃうでしょ?それって良くないと思うから、ばれる前に自分から言った方がよくない?」
「……あぁ、可愛いって、そういうことね。女らしくなったらばれるって、そう言いたいんでしょ」

正にその通りだ。認めたくないけど僕は女だから、いつかは女らしくなってしまうはずだ。ここで成長が止まってくれるならいいが、先のことはわからない。

「いつかばれるんだし、どうせ怒られるんだから、早く言ったらいいさ」
「……うん」
「言いたくない理由でもあるの?」
「…いっぱいあるよ。怒って絶交されたらどうしようとか、今までと違う接し方されたら嫌だなぁとか、」
「その程度で絶交するならそいつもその程度の奴だったってだけさ。接し方とか、君が悩んだところで相手次第だろ」

その通りだし悩むだけ無駄なのもわかってる。でも、それだけ修兵との仲は大事にしたいんだから、悩むくらいさせてほしい。

「あとは?君が落ち込んでるの、その程度の理由だけじゃないだろ?」
「…僕、嘘ばっかつくから、苦しくなってきたんだ。男だって嘘ついてるのもそうだけど、そのせいで罪悪感はあるし、瀞霊廷通信の特集でも僕が男であるかのような内容だったから、あれ読んだ皆を騙したことになっちゃったし」
「実は女でしたって記事書いてもらうしかないね」
「……女の子のファンが消える」
「ワガママ言うな」

もてはやされるの嫌いじゃないから、あれが無くなるのは寂しい。本当にただのワガママだな。

「さっき言った友達がだけど、僕以外の人と仲良くしてるの見たくないんだ。でもそんなこと言えないから、遠慮しちゃうんだ。もう、あの子と居ても、僕に醜い感情ばっかり沸いてくるんだよ。そのせいで、本当に楽しくなくて…」
「独り占めできれば満足?」
「……うん。でも、あの子にはあの子の思いがあるし、邪魔はできないし」

僕は乱菊さんの代わりにはなれないから、間に割り込むこともできなくて、邪魔もしたくなくて。きっと乱菊さんじゃなきゃ、修兵のこと独り占めなんてできないだろう。

「だったら誰かにとられる前に、早く性別明かして好きだって言ってきなよ」
「…言ったら、どうなるの?」
「さぁ?言えばわかるんじゃない?言わないと、ずっと今のままなのは確かじゃない?」
「でも、弓親の言う好きって、恋愛感情だよね?僕、あの子のこと好きなの?」
「知らないよ。話を聞く限りではそうじゃないかと思ったけど」

そうか。じゃあ前に乱菊さんが教えてくれた恋って、僕が修兵を想う気持ちで間違ってなかったんだ。だからこんなにも、苦しくてややこしくて、楽しくないんだ。

「…好きだなんて言っちゃったら、今まで通り友達で居られなくならない?」
「場合によっては、友達のままかもしれないし、友達以上に仲良くすることも可能かもしれないよ」
「友達以上って?」
「そいつとそういう関係になってみれば解るさ」

弓親は意外と無責任だ。僕の悩みごとを全て、言えば解決すると切り捨ててくる。悩む時間がもったいないのは解ってるはずだけど、悩んでしまう。

「ただ、今まで男友達だと思ってた奴が、実は女で自分に惚れてるって告げられたら、良くも悪くも今まで通りとはいかなくなるってのは覚えときなよ」
「うん……」
「ま、フラれたらまたおいで。八つ当たり用の死神いっぱい用意しといてあげるからさ」
「…ありがとう」

近いうちに、全て話そう。こんなもの抱えていたら、僕が僕でいられなくなる。修兵との関係が壊れてしまったら、僕はもう恋なんてしないし、更木隊長のように戦いこそ全てな死神になろう。

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