しょうはい


約束の日。僕の中には醜い感情ばかりが溢れていた。
修兵にはいつまでも可愛い後輩でいて欲しいなんてことを思っていた時もあったが、修兵はもう可愛くなんかなくなっていた。

「修兵……」

暑い日差しの中、汗だくでぼろぼろの僕は、同じくぼろぼろで倒れている修兵を見下ろしていた。修兵は切れた口元を手の甲で拭い、僕から目をそらす。

「俺の負けっすよ、先輩」

僕に負けたと言うくせに悔しそうな様子を全く見せないのもムカついて、僕は修兵に近付き胸ぐらを掴んで、怒った。

「修兵、なんで手加減してんの」
「手加減なんかしてねぇっすよ、先輩が強かっただけだって」
「嘘だって、顔に書いてある」
「嘘じゃねぇし」

修兵は嘘つきだ。守りばかりであんまり僕に攻撃しようとしてこなかったし。ずっと動きに迷いがあった。僕は本気でやれと言ったのに、修兵は本気のふりをしただけだった。それがムカついて、僕は全てを修兵にぶつけてしまった。

「なんで本気でやってくれないの。僕が子供だと思ってるから?僕が弱いと思ってるから?だから勝たせてあげようとでも思ったの?そんなことで勝って、僕が喜ぶと思ったの?」
「そんなこと、思ってない」
「僕が修兵に負けたら子供みたいに泣くとでも思った?修兵が勝ったら修兵の成長を喜ぼうと思ってたし、僕が勝ったら僕自身の成長を喜ぼうと思ってたよ。それなのに、なんだよこれ」

十一番隊のみんなですら、顔見知りでも何でもない関係の頃でも特訓のときには本気で僕に向かってきてくれた。僕が小さいからって手加減なんかしてくれなかったのに。

「なんで勝ったのに怒ってんだよ…」
「本気でやれって言っただろ!僕は全力の修兵が知りたかった!こんなので満足できるか!」
「俺が…先輩の言うことなら何でも聞くとでも思ってんのかよ」
「は?どういう意味」
「俺にだって、できることとできねぇことがあんだよ!!」

修兵は僕と目を合わせないまま、僕の手を振りほどいて突き飛ばし、そのまま走って逃げて行った。
負けたとか言いつつそんな体力が残っていたこともショックだし、修兵のことを理解できないこともショックだった。
僕は本当に、本気の修兵と戦うことができるなら勝っても負けても現状を認めるつもりだった。こんなんじゃ、本当はどっちが強いのかなんて解らない。
僕は何を間違えたんだ。僕はなんで修兵を怒らせた。何も解らないから無闇に謝ることすらできやしない。
それに僕は、今までこんなに怒ったこともないから喧嘩もしたこともない。だから仲直りの方法だって、解らなかった。

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