おやすみ
修兵と喧嘩してから数日経ってしまって、謝りに行っていいものなのかもわからなくて、上の空のままずっとなんとなく仕事をこなしていた。本当のことを話すことすらできなくて、これ以上無いほどに胸がモヤモヤしていた。
いい加減に仲直りをしないと、元通りにすらなれなくなりそうで、今日の仕事が片付いたら会いに行こうと考えていた。何を話すかなんて思い付かないけど、きっと会ってしまえば何か言葉は出てくるはずだ。
「鈴〜、今日飲みに行くんだけど一緒にどう?更木隊長のとこで」
「行く」
修兵のことを考えていたはずなのに、更木隊長という名前を聞いただけで反射的に答えてしまっていた。今日は修兵のところに行くつもりだったけど、更木隊長に会う機会なんて少ないし、ちょっとくらいいいよね?修兵のところには、明日行こう。
夜になって乱菊さんと一緒に十一番隊舎に行けば、更木隊長の他に一角さんや弓親や他の死神たちもいて、既にお酒を飲み始めていた。
「ちょっとー、何勝手に始めてんのよ」
十一番隊の人たちは賑やかで、騒いでいる姿を見ているだけでも楽しくなってきた。
それに乱菊さんにジュースだと偽られてお酒を飲まされたせいで、余計に楽しくなってきた。
「鈴、元気出た?」
「え?僕はいつでも元気だよ」
「…ならいいんだけどね。最近ちょっと元気無いみたいだったから、心配だったのよ」
乱菊さんは僕を抱き寄せた。他の人たちと違って乱菊さんはめちゃくちゃ柔らかくて、幸せな気持ちになった。
「なんで元気無かったの?好きな子でもできた?」
「……そーかも」
「やっぱりね。それって修兵でしょ」
「…え。え?」
なぜばれたのか。乱菊さんは笑いながら僕の頭を撫でまくった。
「修兵が私に投票したって言ったときのあんたの顔、面白かったもの」
「僕はぜんぜん面白くなかったけど!」
「だから仕返しであんたも更木隊長に投票するなんてこと言ったんでしょ?修兵なんか鈴が女だって解ってないんだからそんな意地悪しても意味無いのに。早く女だって言いなさいよ」
「…うるさい」
言われなくたってわかってるんだ。早く本当のこと言わなきゃいけないことくらい。
「好きなら好きって伝えちゃいなさいよ」
「でも修兵は乱菊さんのほうが好きみたいだもん!乱菊さんのばか!美人!」
「あら、ありがと。美人でごめんね?」
「うわーん!」
乱菊さんが美人で修兵がおっぱいに弱いからいけないんだ。僕にはどうにもできないじゃないか。
「でもね、修兵はちゃんとあんたのこと気にかけてるわよ?この前も、あんたの様子がおかしいとか元気がないとか言って相談してただけなのよ」
「修兵が……ほんと?」
「無理して元気なふりしてるんじゃないかって。鈴のことよく見てくれてるじゃない」
修兵はちゃんと、僕のこと見ててくれたんだ。嬉しい。それなのに僕は強がって、修兵に嘘ばっかついてたのか。
「修兵程度の男、鈴の可愛さがあればころっと落ちるわよ。自信持って」
「でも……」
「でもじゃない!私がせっかく応援してんだから、頑張りなさい!好きって言えないなら押し倒してキスの一つや二つすればいいのよ」
「そ、そんな、そんなこと、できるわけない」
「なんで?簡単よ?」
乱菊さんはそう言いながら僕を床に押し倒して唇を合わせてきた。その乱菊さんの唇の柔らかさだけでも頭がおかしくなりそうだったのに、唇を割って熱い舌が入ってきた。以前見せられたドラマのシーンもこんな濃厚だったな、と他人事のように考えてやり過ごそうとしたけど、それよりも乱菊さんの舌遣いがすごすぎて、口元にしか意識を向けることができなくなってしまった。
「おい、何やってるんだよ!」
弓親の声ではっとして、乱菊さんが僕から引き剥がされた。
「何よ。いいじゃない、減るもんじゃないし」
「減る!!御門の心の純粋さが減る!!」
「減ったら何だってのよ。鈴だって女の子なんだから、彼氏さえできれば純粋さなんて無くなるわよ」
「乱菊さんは御門の彼氏じゃないだろ!」
弓親によって体を起こされるけど、顔は熱いし頭はくらくらするし痛いし、変な刺激のせいで調子が狂ってしまったみたいだ。
「鈴、勉強になったでしょ?」
「うん……」
やたら気持ちよかったし変な気分になったけど、乱菊さんの言う通り好きだと言う代わりにこんなすごいことをするくらいなら、まだ普通に好きだと告白した方が難易度は低いだろう。
「顔真っ赤だけど大丈夫?」
「……大丈夫じゃ、ない」
なんだかもう頭が痛くて重くて、せっかく起こしてもらったところだけどまた倒れることにした。弓親と乱菊さんの声が聞こえていたけど、何を言ってるかは聞き取れなかった。
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