まちがい


こんこん、と音が聞こえた。誰か居るのか来たのかよくわからないままに返事をすると、誰かが近くにいるような気配がした。
何か言っているような気がするけど頭が回らなくて、何を言ってるかよくわからない。
さっきまで乱菊さんと飲んでたし、乱菊さんかなと思ったので手招きした。手を伸ばせば布に触れられたので、死覇装だろうし引っ張った。
乱菊さんとした大人のキスがもう一度だけしてみたくて、乱菊さんの名前を呼んで、頬に触れ唇を合わせた。1回してもらったんだから僕だってあのくらいできると思い、舌を割り込ませた。された通りにやってみただけだけど、ちょっと苦しくなって唇を離した。


「お、おい……」


口を離して息をちゃんとしてからもう一度勢いでしてしまったのだけど、乱菊さんにしては全然攻めてこないしさっきと違う感触だし、不思議に思った。
それにさっきした声が乱菊さんじゃなかった気がして、唇を離して相手の顔をよく見てみた。


「…あれ、え?」
「……乱菊さんと、こんなことしてたんすか?」

怒ったような悲しむような、見たくない修兵の顔がそこにはあった。乱菊さんと呼んでしまったことが僕の運の尽きらしい。

「乱菊さんとそういう関係だったんなら、もっと早く言ってくれればよかったのに。この前のアレが初めてじゃなかったのも、乱菊さんのおかげかよ。俺、馬鹿みてぇだな」
「ちが、修へ……」
「乱菊さんとの間接キス、ごちそうさまでした。……じゃあな」

修兵は冷たくそう言って、部屋から出ていった。追いかけたかったけど立ち上がったら頭痛と立ち眩みに襲われ、そのまま座り込んでしまった。
好きだと言わずにキスするなんて手法、やっぱりダメなんじゃないか。乱菊さんだと思い込んでしまった僕が完全に悪いけども。
とにかく誤解を解かないと、もう二度と修兵に会えなくなる気がしてしまった。

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