ほしいもの


「御門先輩、この前の投票結果出たんすけど」

なんて言いながら、修兵が僕のもとを訪ねてきた。お仕事中に会えるのが嬉しくて、つい笑顔になった。

「4位だったんで、豪華プレゼント獲得です。何か欲しいものありますか?」
「4位!?僕が!?えっ、なんでもくれるの?なんでもいいの?」
「こちらが用意できるものなら、なんでも」
「じゃあ僕、更木隊長の写真集発行してほしい!!」

そう言えば、修兵があからさまに嫌そうな顔をした。

「そんなに更木隊長のこと好きなんすか」
「うん」
「…俺よりも?」
「えー、ジャンルが違うよ…。美味しいごはんとエロ本どっちが好き?って聞かれても修兵困るでしょ?」
「お、美味しいごはんに決まってんだろ」
「……」

一瞬でも戸惑って欲しくなかったな。このやろう。

「別にいーじゃん。修兵だって僕じゃなくて乱菊さんに投票しちゃうくらい乱菊さん好きなんでしょ」
「…しょーがねーだろ、先輩に投票したくなかったし」
「何それ、むかつく」
「先輩も知ってますよね。上位五人、写真集強制なの」
「だから何?」
「……先輩の色んな姿がどこの誰ともわかんねぇような奴等に見られんのが嫌だったんすよ」

修兵ってば可愛いこと言ってくれる。確かに僕も、修兵のこういう可愛い一面とか、他の人たちに見てほしく無い。同じ気持ちか。

「まぁいいじゃん。僕の最高に可愛い姿は修兵にしか見せないんだからさ!」

仕事中だけど修兵に抱き付いた。女だからこそ、こういうことしても修兵に許してもらえるんだ。女であったって、悪いことばかりじゃないんだ。

「それはそうとして、世のみんなは先輩のこと男だと思ってるんすけど、どうするんすか。投票者のほとんどが女の子でしたけど」
「え?ほとんどってことは…僕に投票してくれる男もいたの?」
「……二割くらいは男でした。それも、かわいいとか、女なら良いのにとか、性転換してとかのコメント付きで」
「修兵みたいな変わり者がいっぱいいるんだね」

あまり知りたくなかったが、やはり僕は男人気もあるらしい。可愛いって罪だ。

「まぁいいんじゃない?あの特集、性別男ってわざわざ書いてたわけじゃないし」
「…あぁ、だからこそ編集部に問い合わせで性別のことばっか聞かれて、男だって言いまくったんすよ。編集者として許されないっすよ」
「えー……もう知らない。勘違いしたみんなが悪いんだもん」

僕は悪くない。何が悪いかと言えば、僕の一人称が僕だということだ。だからみんなを勘違いさせてしまうんだ。やっぱり悪いのは僕か。ごめんなみんな。

「それより、僕へのご褒美、叶えてくれるんだよね?」
「……怖いんで、先輩が更木隊長に許可もらいに行ってくださいよ」
「わかったー。でも写真撮る技術無いんだから、その辺は頼むよ」
「へいへい。一応聞いときますけど、第二希望は?」
「んー…特に無い。技局に研究資金でもあげといてくれれば良いかも」
「先輩自身が欲しいものは無いんすか?」
「…修兵と、一緒に居られる時間」

これはわがままだし、あんまり主張できないけどね。聞かれたんだからしょうがない。

「じゃあなるべく、先輩の休みに合わせます」
「別にいいよ。隊の人に迷惑かけちゃいそうだし、お仕事優先してよ」
「でも、」
「僕が修兵の休みに合わせれば何も問題無いでしょ」
「……、はい」

それでいい。僕に特別な用事なんてそうそう無いんだから、いつが休みだって問題無いんだ。

「俺が、先輩にしてあげられることってないんすかね?」
「修兵は生きてるだけでも僕のためになってるから別に何もしなくても嬉しいけど」
「本当に?」

だって仕事中だってこうして会えるわけだし、僕は修兵が好きで、修兵は僕が好きで、その事実以外に何が必要だと言うのだろうか。

「僕のこと……名前で呼んで欲しい」
「……鈴、先輩」
「その、先輩ってのいらない。僕、修兵とは対等な関係になりたい。だから、敬語だってやめちゃってもいいくらいだよ」
「…鈴、って、呼び捨てしちゃっていいのか?」
「いいよ。ただ、その、今呼ばれただけでも相当浮かれちゃってるから……仕事中以外で、二人の時だけにしよ」
「了解」

名前で呼ばれただけでこんなにも、距離が縮まったように感じてしまうなんて。不思議なものだ。

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