おんなのこ


「ねー七緒ちゃん、このあと一緒にご飯食べに行かない?」
「いいですよ」

ほぼ毎週のように続いていた七緒ちゃんとの図書館デート。昔は七緒ちゃんの手を握っていたが、途中からなんとなく七緒ちゃんの手を握れずにいた。
それは僕が男だと認知されていて、七緒ちゃんに浮わついた噂が根付いてしまったら申し訳無いという罪悪感からだ。ただ、毎週のように仲良く会っていたらそれだけで噂されることもあったけど、図書館以外の場所で会うことがほぼ無かったためそこまで話題にはならなかったようだ。

「そういえば、写真集見ましたよ」
「えっ、は、恥ずかしいな…」
「やっと自分が女の子だってこと、受け入れる気になったんですか?」
「…それも、ある。あと、女だってばれる前に、自分からばらしたかったから」

あと密かに思ったのは、修兵に受け入れて貰えたから、他の人たちに僕の本当の性別を知られてどう思われようがどうでもよかったからでもある。女の子のファンが減るのは惜しいと思ったけど、どうせいつかばれるんだと吹っ切ってしまった。

「でもこれで、七緒ちゃんと僕の間に変な噂立つことはもう無いはずだから」
「そんなこと気にしてたんですか?」
「そりゃあ…七緒ちゃんに、迷惑かけてたんじゃないかって心配だったし」
「私はその程度のこと気にしませんよ。どんな噂であろうが、所詮噂なんですから」

その程度だとか言うくらいなら、手繋ぐのやめなければよかった。

「…久しぶりに、手繋いでもいい?」
「成長したように見えていたんですが…まだまだみたいですね」

七緒ちゃんは柔らかく微笑んで僕の手を握ってくれた。人と手を繋いで歩くこと自体が久々で、少し気恥ずかしかったけど、嬉しくなった。

「御門くん!」

浮かれて歩いていたら、女の子たちに呼び止められた。いつだか見たことのある子たちだった。

「御門くん、女の子だったの…?」
「あ、うん…」
「私たちのこと騙してたの?あんなにキャーキャー騒いで馬鹿みたいじゃん…。それに、なんで伊勢副隊長とらぶらぶ手繋いでるの!?つつつつ、付き合ってるの!?どっちが彼氏でどっちが彼女!?」
「ご、ごめんね?付き合ってないから、あの、落ち着いて?」

僕のことをアイドルのようにちやほやしてくれていたのだから、錯乱するのもわかる。女でごめん。

「学生の頃からずっと好きだったのに!!だったらもっと早く言ってよ!」
「えぇ!?あ、ありがとう!ごめんね!」
「御門くん女の子と付き合う気無いの?」
「…え?いや、ごめんね?」
「やっぱり、付き合うなら男がいいんだ……」

ごめんねみんな、僕もう修兵と付き合ってるよ。言わないけど。

「あの…みんな、友達じゃだめ?キャーキャー言ってくれるのも嬉しかったけど、友達みたいに仲良くしてくれた方が僕も嬉しいんだけど……なんて、ワガママかな」

隠し事という壁が無くなったから一歩踏み出してみた。そしたら女の子たちは顔を見合わせて、くすっと笑った。

「そりゃあそうだよね、同じ女の子なんだから、普通に仲よくするのが普通か〜」
「じゃあさ、鈴ちゃんって呼んでもいいってこと?」
「…い、いいよ」

呼ばれ慣れないせいで少しくすぐったくなった。
でも今まで騙していたというのに許してくれて、気が軽くなった。

「よかったですね、鈴ちゃん」
「な、七緒ちゃん……」

七緒ちゃんにまで名前で呼ばれて恥ずかしくなった。この呼び方は女の子成分が強すぎて、慣れるのに時間がかかりそうだ。

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