ひさぎ


「修兵ー!ねぇ、おはよう!おはよう修兵!また会ったね!」
「おはようございます、そんな何回も言わんでも聞こえてますって」
「後輩のくせに可愛くないぞ!」
「先輩のくせに大人げないぞ」

以前実習で偶然同じ班になった檜佐木修兵という年上の後輩は、年上のくせに僕に対抗心を燃やしてくるカワイイ後輩だった。
たぶん僕が年下のくせに成績優秀で女の子にモテるから嫉妬しているんだろう。それが楽しくてちょっかいをかけるんだけど、それを嫌がらず相手してくれるので僕のお気に入りの後輩だ。

「修兵、友達いないなら一緒にお昼ご飯食べよ」
「友達はいるからお断りします」
「えー。じゃあ一緒に食べたいから一緒に食べようよ」
「…まぁ、それならいいっすけど」

修兵と一緒にいると、女の子たちの視線がいつもよりも多い気がした。なんとなく女の子に視線を向けても目が合わなかったりするし、たぶん修兵のことを見ているんだと思うけど、修兵の目付きが悪いせいか誰も近寄って来ようとはしなかった。
見られるのは気分が悪いが、話しかけてこないならどうということはない。

「御門先輩といると女子の視線が多くてモテてる気分になれていいっすね」
「みんな修兵のことも見てるよ」
「そんなバカな」
「修兵目付き悪くて怖いけど、背高いし落ち着いてるしかっこいいと思うよ」
「……同性のことよくそんな誉め方できますね」

素直な意見を言っただけなのに、修兵は目をそらした。そういえば僕はここでは男なんだった。あんまり軽率なことは言わないようにしないと。

「修兵ももっと僕みたいににこにこしてればもっと女の子寄ってくると思うよ」
「楽しくもないのにそんなにこやかにできねっすよ」
「えー、僕といて楽しくないの?」
「それは…そんなことねぇっすけど」

なんだかんだで僕に構われるのが嫌じゃないみたいだし、普通に嬉しい。僕がこんなに年下でクソガキでも、先輩だからってちゃんと適当な敬語を使ってくれることも嬉しい。

「じゃあもっと笑ってよ」
「強要されると難しい」
「じゃあ僕が修兵の分までにこにこして女の子にモテるから、修兵ファンの女の子がいなくなっても文句言わないでよね」
「そんなのいねーよ」
「いるよ、例えば前からくる女の子たち修兵のこと見てるでしょ」
「えっ」

僕が言って初めて気が付いたらしく、修兵は女の子たちに目を向ける。それにあわせて女の子たちはそわそわし始めた。

「こんにちはっ!」
「え?あっ、こここんにちはっ…!」

すれ違い様に僕が爽やかに挨拶してみると、女の子たちはびっくりしながら頬を赤らめ挨拶をしてくれた。すれ違ってからも振り向いてみればまだ僕のことを見てくれていたので、微笑んで手を振れば嬉しそうに笑って手を振り返してくれた。

「修兵のファンに修兵の分まで笑ってあげたけど、感想は?」
「すげームカついたんで女子に媚び売るのやめてくれ」
「きゃーきゃー言われるの羨ましいなら修兵もにこにこしてみなよ」
「羨ましくないって言ったら嘘になるけど、そうじゃなくてその八方美人な態度が気に入らない」
「…みんなに笑顔振りまくこれ?」
「そう」
「…じゃあ、修兵の前でだけ笑顔でいてほしいってこと?」
「……ちげぇよ!!!」

修兵は一瞬だけ気の抜けた顔を見せてきたけど、すぐに怒鳴って否定してきた。もうわけがわからない。

「俺にそっちの気はねぇよ!」
「じゃあ何?僕の笑顔はチャームポイントなんだけど」
「…もういいっす」
「だってさ、僕が笑うとみんな喜んでくれるんだよ?だったらにこにこしてた方がみんな嬉しいし、僕もちやほやされて嬉しいし、一石二鳥じゃん」
「…それ、疲れないんすか?」

にこにこすることが?疲れる?僕は楽しいから馬鹿みたいに笑ってるだけだし、そんなことないのに。

「平気だよ。笑うと楽しいよ」
「楽しいから笑うの間違いじゃないっすか」
「そう思うなら僕といて楽しいはずの修兵が笑ってないのはおかしいんだけど!笑え!先輩命令だ!」
「知るかよ…ってくすぐるな!笑うもんか!」
「仏頂面はつまらん!僕といるときくらい僕のために笑え!」
「わかった!わかったから!くすぐったいからやめろ!」

脇をくすぐる手を掴まれてしまい、自由がきかなくなってしまった。そこでやはり僕の力が弱いことが証明されてしまいまたへこんだ。

「クソガキ先輩の世話は疲れるぜ…」
「誰がクソガキだって?生意気言うと勉強教えてあげないぞ」
「それは、ほら…関係無いじゃないっすか」
「クソガキに勉強教えてもらうの楽しいでちゅか〜?」
「……すんませんした御門先輩」

八つ当たりをして謝らせ、満足する。ついでに腕も解放してもらった。

「そーいえば今度の実習、この前と同じ班でやるらしいからまた一緒にできるみたいだよ、やったね」
「先輩がいると俺が活躍できないから嫌なんすよね」
「僕は誰といようが関係なく僕が活躍するから、修兵と同じ班で嬉しいよ」
「あー腹立つ」

でも実際は修兵も優秀だしそれなりに強いから、一緒にやるときはいつも本気じゃないと僕は活躍できるか危ういところだ。今度も先輩らしくかっこよく活躍して、修兵に苦い顔をさせないとな。

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