おくすり


あのあと、寝る前に二人でシャワーを浴びて洗いっこしたんだけど、そこでも修兵は我慢できなくなっちゃうし大変だった。布団に戻るころにはさすがに疲れていて、僕も修兵も寝てしまった。
朝には幾分か冷静さを取り戻した修兵が何やら薬を買ってきて無理矢理僕に飲ませてきた。それから子作りのことを事細かに説明してきた。ちょっと怖くなったから、昨夜みたいなえっちは控えたいなと思ってしまった。

「それじゃ、俺はそろそろ仕事行くけど……鈴は?」
「体が痛いしだるいから仕事どころじゃない。それにもともとあんな体だったから前もって藍染隊長には休むって連絡してあったし」
「……そか。なんかごめんな」
「別に修兵悪くないし……昨日からちょっと謝りすぎじゃない?」
「いや、だって……」
「だって?何?」

話が終わる前に逃げられないように修兵の腕を掴んだ。

「結構がっついて、無理させちまったみたいだし…」
「…でもそれ、修兵が僕を好きだからこそなんでしょ?」
「それはもちろんそうだ」
「だったら気にしないでよ。悪いことなんか何もしてないんだから。それに……誘ったの、僕の方だし…」
「…そういえばそうだな。鈴って意外と大胆だよな」
「2度と僕から誘わないからな…」

大胆なのが僕の本性だったわけじゃない。あのときは仕方なく、というか全部涅隊長のせいだ。

「とにかく、修兵が負い目を感じる必要は全く無いの。わかった?」
「…おう」
「ん。じゃあお仕事いってらっしゃい」

修兵を仕事に送り出してから、僕は文字通り重い腰を上げて死覇装に着替えた。仕事に向かうつもりはないが、技術開発局には向かわないといけなかったからだ。
左腕を得た代償に涅隊長の被験体になり、結果を報告するところまでが僕に与えられた役割だ。それは実験のたびに課せられた義務であり、涅隊長への恩を考えると、放棄することはできなかった。


「涅隊長……」
「おや、もう元に戻ったのかネ?」
「そうです。散々でした」

男になっただけで色々なことが起こりすぎてなんだか精神的に不安定だ。自分の行いを思い出すだけで、嬉しくも楽しくもあったのだが、罪悪感とか羞恥心とか後悔も同時に押し寄せてくる。

「それで、体調への影響はあったかネ?」
「…無いです。体調はなんともないけど、精神的におかしいというか、なんか、とりあえず色々おかしかったし、今もちょっとおかしいです」
「具体的には?」
「…言わなきゃだめですか?」
「当たり前だろう、何のための被験体だと思っているのやら」

くう、むかつく。

「僕の心は女のはずなのに、女の子に対して、その、そういう目で見てしまいました」
「ほう、それは特定の相手に?」
「そーです。……て言っても、ネムちゃん以外にまともに会話したのその女の子だけだったから、どうなんでしょう…」
「使えん奴だネ。せっかく新薬を試させてやったんだから色々なことをやってきてもらわないと、こちらとしてもデータを解析できないじゃないか」
「……それはすみませんでしたね」

なんで僕が怒られるんだ。勝手に薬盛ったのはそっちじゃないか。

「それで、お前が欲情したのはその女一人かネ?」
「…男も、一人」
「ほう、体が男になっても男に欲情するとは想定外だったな」
「…」
「まぁ無理も無いか。性転換薬にうっかり混ぜてしまった媚薬の効果もあったんだろう」
「……は?」

媚薬?うっかり?いや、涅隊長がうっかりミスしたものをそんな適当に人に試したりしないだろう。まさか初めからそっちの効果をメインにして僕で実験したんじゃないのか。

「…あの、媚薬ってよくわかんないんですけど、もう効果切れてますよね?これから突然効きだしたりとかしないですよね?」
「さて?性転換薬は即効性にして、絶頂に達したら効果が切れるようにしていたが……媚薬の方は阿近が作っていた試作品でネ。まだ誰にも使わせていなかったようだったから、ついでに被験体に打ち込ませてもらっただけだヨ。効果があったかどうかは、身に覚えがあるかどうかでわかるんじゃないのかネ?」

さらっとすごいことを聞いてしまったけどそれより、阿近ってばなんてもの作ってるんだよ。馬鹿なの?いや、賢いからこそそんなものまで作れてしまうのか。最悪だ。やっぱり技術開発局はこわい。

「数時間で効果が出るとは聞いていたから、すでに効果はあったはずだが?」
「…そーですね。でも今回の薬、絶対同時に使わない方がいいです。本来同性である子に手を出すところでした」
「媚薬の効果をもってしても我慢できたと言うのかネ?」
「僕の理性が女の子に酷いことするなって言ったから」
「ふむ、媚薬は強化と改良の余地があるようだネ」

強化したら洒落にならないだろ。それの被験体にされたら僕はもう自害するしかないかもしれない。恥をさらすくらいなら死にたい。

「ところで今日は阿近の奴が新薬を開発したと言っていたのだが、被験体第一号になる気は無いかネ?」
「嫌ですけど、ちなみに効果は?」
「俗に言う、惚れ薬だヨ」
「お断りです!!」

そんなもの盛られたら今度こそ僕は間違いを犯してしまうかもしれない。そうなったら手遅れなので、ダッシュで技術開発局をあとにした。走ったら腰の痛みが響いてきて泣きたくなった。

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