背水の陣


「それじゃあ藍染隊長、行ってきまーす!」
「いってらっしゃい」


今日もまた討伐任務だ。
強くなりたいからいっぱい仕事ください!とねだったら、渋々といった感じでだけど僕に仕事を回してくれるようになった。あまり僕に危険なことをさせたくないとか言われたけど、どうしても、とお願いしてやっと僕の意思を尊重してくれた。


「あんまり厳しくいく予定はないけど、僕が弱そうだからって馬鹿にする奴は後で叱るから、真面目にやってね」

新人を数名引き連れての任務だったから、僕は責任者として気が引き締まる。昔は僕もこうしてついていく側の死神だったのに、今や責任のある席官だ。学生の頃に、諦めたりしなくて本当に良かった。
成長したのは僕だけでなく、後輩の恋次たちもだ。恋次は僕が入りたかった十一番隊で席官になり、嬉しそうに自慢してきた。ちょっとだけ羨ましくも感じたけど、素直に僕も喜んだ。
あとは桃ちゃんも五番隊でそのまま席官に昇格し、イヅルは四番隊への昇格だった。可愛い後輩たちが僕を追い抜きそうな勢いで育っていて、少し焦った。


「御門七席、探知機の反応が強くなってます…」
「そろそろかな」

新人君の顔が引き締まる。死神になって初めての実戦だから緊張するのも当然だろう。席官である僕も強そうに見えないだろうから、そのせいでの不安もあったりするのかな。
いつ敵に来られてもいいように刀を抜けば、新人たちも真似して刀を抜いた。

「ひっ」
「来たか」

ゆらゆらと現れた虚が、僕らの存在に気付いてこっちに向かってきた。通常の虚より大きいせいで新人たちはびびってしまって、動けそうになかった。今回は実戦の空気だけ知ってもらえばいいかと思い、僕が率先して立ち向かうことにした。

「破道の三十一、赤火砲!!」

虚に隙を作るため鬼道を使い、煙の消えぬ内に突っ込んで勢いのままに虚を叩き斬った。耳をつくような虚の雄叫びを聞きながら消滅するのを見ていたら、消える寸前で体内から何かが飛び出すのが見えた。

「うわあああ!!」

振り向いた時にはもう手遅れで、虚から出てきた何かは新人の体に乗り移っていた。

「だめだ!!離れて!!」
「えっ」

取り付かれた新人は、手にしていた刀で傍にいた仲間を斬りつけた。それから躊躇うこともなく他の仲間にも斬りかかろうとするから、助けに行って刀を防ごうとした。だが人を守りながら戦うことに不馴れで、思いきり体を斬られてしまった。激痛で膝を付きそうになるけど、そいつは止まってくれないから頑張って避けた。

「みんな離れて!!」

応援を呼ぶにしても、このままだと僕が出血で意識を飛ばして、その間に他の仲間が殺られてもおかしくない。これ以上犠牲を出さないためにも、僕がこの子を、処分するしかない。

「ぐあああ!!」

新人とは思えない速さで刀を振りながら迫ってくる。逃げ回って動くほど、僕の血液も体力も奪われていく。

「縛道の九、撃!」

霊子の縄で縛り付けると動きが止まった。だが、さきほど取り付いた何かが新人の口から顔を出し、そのまま飛び出した。反射的に僕は飛び退いたのだが、そいつは別の新人に向かって飛び、今度はそっちに乗り移った。その姿は見たところ虚のようで、寄生型ってやつなのだろうか。
縛るだけでは効果が無いなら、もう斬るしかないかもしれない。万が一僕が取り付かれたりしたら、それこそこの場の全員を殺しかねない。

「ああっ、御門七席っ…!」
「いいから、下がってて…」

被害を極力抑えるのだって、仕事だ。この場で虚を仲間ごと斬れる度胸のある子なんて居ないだろうし、新人にそんな重いことなんてやらせたくない。斬れるのは、僕しかいない。

「ごめんね…」

迷っている暇は無い。
虚が乗り移ったばかりで慣れない体でふらふらしている隙をついて、素早く体を斬りつけた。そしたら血を噴いてダメになりそうなその体から、虚がまた飛び出そうとしていて、今度こそ逃げられる前に虚も斬った。

「な、七席、」
「ごめん…救護班、呼んで…」

この子が死んだらきっと僕は仲間を犠牲にした嫌なやつだと思われるだろう。嫌われるのには慣れていないから、それならいっそ、僕も一緒に死んでしまいたい。

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