なくしもの


あれから何時間、何日経ったのか。部屋の中には誰も居らず、窓からは夕陽が射していた。
誰かに会いたくて起き上がろうとしてみたのだが、うまく体が支えられなくて、左腕が無いことを思い出した。これだけの生命力を持っていたことに感動しつつ、自分が生きているということは修兵も生きているはずだと思い安心した。
それでも、この未熟な僕が片腕を無くしたことでこれ以上の成長を望めるかというと、難しいだろう。こんなハンデを負っていては、死神として虚と戦うなんてできる気がしなかった。
どうするべきか考えていたら、部屋の扉が開かれて、誰かが入ってきた。

「鈴ちゃん!目が覚めたんだね!」

嬉しそうにそう言って駆け寄ってきたのは京楽おじさんで、僕をベッドから起こして抱き寄せた。

「よかった、本当に心配したんだよ」
「…ごめんなさい」
「いきなり虚を相手にして生きて帰ってきてくれたんだ。本当によかった」
「僕は生きてるけど、でも、他のみんなは?どうなったの?」
「…君の班の子が一人と、他の班の子たちが数名亡くなったよ。どうやら虚は君が倒した一体だけじゃなかったみたいでね」
「修兵は…僕と一緒にいた後輩は、無事だったんだよね?」
「君と一緒に運びこまれた男の子なら、四番隊で治療して、もう普通に授業に出ているさ」

骨折させちゃったけど無事だったならよかった。四番隊って骨折程度の怪我ならそんなに早く治せちゃうのかな。

「待って、授業にって……えぇ?僕今授業休んでるってこと?」
「まぁ、四日間も眠りこけてたからねぇ」
「そそそ、そんなに寝てたら授業についていけなくなるよ!もう目覚めたから明日から授業出ていいよね!?」

せっかく頑張って成績優秀でいられたのに。何日も空けていたら僕みたいなバカはすぐに置いていかれてしまう。

「1つ聞きたいんだけど……鈴ちゃんはその腕で、まだ死神を目指すのかい?」
「え……」
「四番隊の卯ノ花隊長に相談してみたんだけど、君の腕はもう元には戻らないみたいなんだ。せめて斬られた腕が残っていたらどうにかできたかもしれないけど、君が撃った破道で虚の巻き添えを喰らったみたいで、接合できる状態じゃなかったんだ」
「…でも、義手とか、何か」
「できないこともないが、複雑な動きは慣れないと難しいし、戦えば衝撃に耐えられないかもしれない程度のものしか用意できないんだよ。学校の生活にすぐ戻るのは難しいだろうし、院生の皆に遅れをとることは避けられないだろうねぇ」

授業についていけなくなるとかそんな程度の話じゃなく、現実問題として腕が無いときついということだ。ただでさえ体術が苦手だったのに、片腕になったらどれだけ貧弱になるというんだ。

「ここで諦めるのも1つの手だ。だけど、鬼道の実力は目に余るものがあるみたいだから、僕らの間で話題になっていてね。入隊も目じゃないって」
「…だったら、やっぱおじさんの言う通り、もっと待てばよかったね。もっと成長してからだったら、こんなことにならずに済んだかもしれないのに……そしたら、ちゃんと五体満足で死神になれたかもしれないのに…。今のこんな僕じゃ、力が足りなすぎるよ…」

せっかく死神さんに目をつけて貰っても、その時点より弱い状態に成り下がっているわけだから意味がない。

「おじさん、ごめんね、せっかく育ててもらったのに片腕無くしちゃって、ごめんなさい…」
「僕は鈴ちゃんが生きててくれるだけでも充分だから」
「ごめんなさい、ごめんなさい…」

以前のように抱き付いたって、片腕では抱き付いてる気分になれなくて、悲しくて泣いた。僕の分まで京楽おじさんが僕のことをきつく抱き締めてくれて、嬉しくて余計に泣けた。

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